ようこそ、パレードへ

映画『パレードへようこそ』

 田舎の炭鉱町の福祉委員会で書記を務めるクリフ(ビル・ナイ)が、炭鉱夫たちを支援するためロンドンからやってきたゲイ&レズビアンの面々に、“黒い鉱脈”と呼ばれる石炭の層について語る場面がある。

「まずスペインから始まって、ビスケー湾の下を通って南ウェールズで地表に。そこから大西洋の海底を何マイルも何マイルも、そして再びペンシルヴァニアで地表に出る。炭鉱の人間なら誰でも、ウェールズでもスペインでもアメリカでも断層を見ただけでわかる。ここの石炭は特別だ。完璧で、純粋なんだ」

 まるで詩を読むように語るビル・ナイの言葉に、視界が一気に開けていく感覚をおぼえた。国境も海も越えて、地下の深いところを黒い鉱脈が走っている。ロンドンからきた若者たちが「ここが町?」と思わず戸惑ってしまうほど小さな片田舎の町から、スペインへ、アメリカへ。

 同じように炭鉱町を舞台にした『ブラス!』や『リトル・ダンサー』、日本の『フラガール』など、炭鉱で生きる人々の苦難や誇りを描いた名作映画は多いが、こんな風にそれが世界とつながっていることを語るシーンはなかったように思う。1984年、サッチャー政権下のイギリスで政府による炭鉱閉鎖案への抗議ストライキを行うウェールズの小さな町の炭鉱労働者たちと、寄付金を集めて彼らを支援したロンドンのゲイ&レズビアングループとの交流を描いた『パレードへようこそ』が、その他の炭鉱ものと少し違うのはそこだ。

 表には見えなくても、地面の深いところでつながっている鉱脈。異なる国で生きていても、そこを掘る人間ならば、そこには完璧で純粋なものが埋まっていることを知っている。

 それはまさにこの映画の主題、「ゲイの権利だけを主張しても意味がない、じゃあ労働者や女性の権利は?」というゲイの青年・マーク(ベン・シュネッツァー)の言葉と見事に共鳴する。そしてさらに、後に明らかになっていくビル・ナイ演じるクリフの人生とも。

 巧いなあ、とため息がでる。個性的なキャラクターたちが出会って起きる化学反応や、ザ・スミスやカルチャー・クラブなど80年代ヒット曲の絶妙な使い方など、エンタテインメント映画としてもよくできているのだが、それよりもなにげない台詞や仕草がその奥にあるもっと深い何かを連想させる。その見せ方が巧いのだ。

 たとえば地元の男性と10代で結婚して以来、旦那の世話に明け暮れている村の女性がゲイのカップルに興味津々で「知りたいことがある」と話しかける。きっとベッドでのことだろうと予想していた男二人は、「家事はどっちが?」という意外な彼女の問いに思わず顔を見合わせる。軽く観客を笑わせるための、いわば「くすぐり」のシーンのように見せているが、ふとそう尋ねた彼女の人生を思ったとき、この台詞は突然胸を衝く。

 クリフが福祉委員長で昔馴染みのヘフィーナ(イメルダ・スタウントン)と並んで座り、軽食用のマーガリンサンドをカットしている場面。そこで二人はある重要な会話をかわすのだが、その前にパンを四角くカットしたクリフにヘフィーナが「三角に切って」と言う。クリフはパンの位置を90度ずらして、再びパンにまっすぐナイフを入れていく。ナイフの動きは同じでも、パンを置く角度が違うだけで、できあがる形は違う。そして三角はLGBTのシンボルのひとつでもある。

 そして劇中で繰り返し叫ばれる、炭鉱夫支援同性愛者の会・LGSMの団体名でもあるスローガン“Lesbians and Gays Support the Miners”。この“Miner”(マイナー)は炭鉱夫の意味だが、少数派を意味する“Minor”(マイナー)と発音は同じだ。

 と、そんな細かいことはさておいても、威勢がよくてカラフルで胸が熱くなる映画であることは間違いない。

 物語は1984年のロンドンのプライド・パレードで始まり、翌年のパレードで幕を下ろす。作り手たちがこの作品で本当に伝えたかったのは、この一言につきるのではないだろうか。それはこの映画の、最後の台詞。

 Shut up and march!

追記:

12月25日(金)、26日(土)と東京・池袋の新文芸坐でアンコール上映されるので、見逃した方はぜひスクリーンで。ちなみに併映は『フレンチアルプスで起きたこと』。なんという2本立て! 続けて見ると、心に小さな灯りがともったり、それが雪崩でふっとばされたり、精神的に激しく上下するはず。でもまあ、人生だってそんなものだ。

新文芸坐 シネマカーテンコール2015

『パレードへようこそ』

原題/PRIDE

監督/マシュー・ウォーチャス

脚本/スティーブン・べレスフォード

出演/ビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、アンドリュー・スコット、ジョージ・マッケイ、ベン・シュネッツァー

製作年/2014年 製作国/イギリス 

日本公開/2015年

カラー121分

http://www.cetera.co.jp/pride/

© PATHE PRODUCTIONS LIMITED. BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE 2014. ALL RIGHTS RESERVED.

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