top of page

うわぁ、テクノのアロマテラピーや〜!<br>(彦摩呂風)

ドキュメンタリー映画『DENKI GROOVE THE MOVIE? -石野卓球とピエール瀧-』

“そうか、テクノという手があったか!”とテクノに救われたことが、これまでに三度くらいある。ちょっと煮詰まっていて、音楽も受けつけない状態の耳に飛び込んでくる、新しいサウンド。ロック時々パンク一辺倒の私にとって、なじみの薄いテクノ・サウンドには、SF的な興奮がある。ミスター・スポックやE.T.に出合ってしまった! ような衝撃に、視界が広がる錯覚すら覚えてしまう。それでも初めて聴く音で、体を揺らす快感は本物だ。その自由さは、恋に落ちてしまうほど気持ちいい。

 そんな数少ない、最新の未知との遭遇体験が、先週試写で観たドキュメンタリー映画『DENKI GROOVE THE MOVIE?——石野卓球とピエール瀧——』だった。1989年8月20日、大阪・十三のファンダンゴで行われた、幻の初ライブから、昨年のFUJI ROCK FESTIVAL’14/GREEN STAGEまでのライブ映像を見るだけで、このバンドの破天荒な姿勢がビシバシ伝わってくる。日本初の本格的なロックフェスとなり、台風直下の悪天候の中で行われた97年のフジロックでの「富士山」のパフォーマンスから、バンドにとっては初めてのオールタイムベスト的なセットリストで、会場を沸かせた06年のライブを経て、昨年のグリーンステージへ。舞台袖でピエール瀧はコンビニに行く感覚で、グリーンに立つのだと、余裕の笑顔をカメラに向けていた。この、サザエさんみたいな愉快な感じは、経験を積み上げて作り上げられたものなのだと、改めて感じ入った。さらにドイツ・ドルトムンドで行われた、テクノの祭典MAYDAYのステージに、ケンタウルスの着ぐるみ姿で登場した瀧のカッコ良さったら! 石野、瀧と親交の深い、クリエイターの天久聖一氏の言葉を借りれば、電気グルーヴは、26年という年月をかけて「自由を求めて、みたいな感じじゃなくて。どこ行っても自由に出来るし、肩の力が完全に抜けてて。だから何にでも対応できる」唯一無二の存在になったのだ。

 二人の指名で、四半世紀分の膨大な映像資料250時間(!)の中から、選りすぐりの映像のエディット&ディレクションに臨んだのは『モテキ』(11)や『バクマン。』(15)を手がけた、大根仁監督。キャスト、スタッフ、観客をも、作品の愛の渦に巻き込んでいく、怒濤の大根ワールドは、ドキュメンタリー作品である本作でも健在だ。ライブでのカッコ良さとは異なり、オフショット映像では、ツンデレよろしく、コアなファン目線を徹底。高校一年生の頃から、ずっと変わらずなかよしな二人の、不思議な関係性を見せつける。エンドロールで映し出されるのは、最近のライブのリハーサル中に、笑い転げる二人の様子!? お尻を出して、ふざけ合っていた二人が、おっさんになってもそのまま、今年いちばんのバカ笑いして、リハを切り上げる。この適当さは誰にも敵わない(そして憎めない)。大根監督の、愛にあふれたディレクション力が光る。

 既存のドキュメンタリー映画の常識に捕らわれない、さまざまな趣向もユニークだ。電気グルーヴの26年のヒストリーを語るのは、メンバー本人ではなく、元メンバーやスタッフ、アーティストたちの証言だけというクールさ。ナレーションを英語にする遊び心プラス、日本という枠を超えて、世界中のファンを意識したスタンス。大根監督の豊富なアイデアもまた、誰にも真似できないものである。

 試写ビフォーアフターで、JR総武線の車窓から見える世界がすっかり変わるくらい痛快な、新しい映画だった。年を重ねて丸くなった体でも、せめて瀧さんくらい、いつでもジャンプできる筋肉くらいは持っていたいぞと思った。

『DENKI GROOVE THE MOVIE? -石野卓球とピエール瀧-』

監督/大根仁

キャスト/電気グルーヴ(石野卓球、ピエール瀧)ほか

配給/ライブ・ビューイング・ジャパン

上映時間/115分

12月26日(土)より、新宿バルト9、静岡東宝会館ほか

全国ロードショー

© 2015 DENKI GROOVE THE MOVIE? PROJECT

bottom of page