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おばさんも乙女も、やらかくあやし合って

NHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」

 ヒロイン・あさを演じる波瑠の、物憂げな顔つきのせいか、朝ドラらしからぬ、夜っぽい印象を抱いていた、NHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」。男勝りなあさと好対照なキャラクターで人気を集める、可憐な姉はつ(宮崎あおい)にまで、夫・惣兵衛(柄本佑)との夜の営みを匂わせるシーンがあったりして、久しぶりに大人がドキッとしてしまうドラマだ。

 あさの娘・千代も成長し、小芝風花が演じるようになってから、波瑠の大人っぽさがいっそう際立ってきた。あさのモデルとなった広岡浅子が、日本女子大学を設立したのは52歳のとき。幕末から大正時代に活躍した女性実業家の貫禄を、24歳の波瑠は堂々と演じている。華やかな着物をまとった、おてんば娘の頃よりも、渋めの着物や洋装姿の最近の方がしっくり来るのだから、女優って不思議だ。

 とは言え、おばちゃんになっても、自転車に挑戦するなど、相変わらず好奇心旺盛のあさ。少女時代から変わらぬ、彼女の口癖は「びっくりぽん」と「なんでどす?」だ。ついつい余計なことを言ってしまう、でしゃばりな性格を、口をつまむ仕草で、お父はん(升毅)や夫の新次郎(玉木宏)らにたしなめられ、自らも反省してきたあさだが、何事にも物怖じせず、素直に向き合い、自分なりに理解しようとするヒロインの、チャームポイントをよく表したセリフである。そんな彼女が、第23週「大番頭のてのひら」の135回で、素朴な疑問をぶつけて困らせ続けてきた、女中のうめ(友近)の「なんでどす?」に見事に答える「びっくりぽん」なシーンがあった。

 かつては一緒に加納屋を出ていく話もあったが、結局別れた妻と娘の元へ去っていった、想い人の雁助(山内圭哉)と再会することになったうめ。事故に遭い、意識の戻らない雁助の様子を案じて、加納屋を代表して病院に残ることになったうめは、雁助の元妻とふたりきりになる。枕元で、まだ目を覚まさない雁助の愚痴をこぼすツネに、雁助の手をとることさえためらっていた、ウブなうめは、ショックを受ける。ようやく見舞いに来たあさに、思わず「なんで夫婦というのは、あんなにけったいなものなんだすやろか?」と疑問をぶつけるのだ。いつになくムキになったうめを穏やかに言い含めるあさは、すっかり世の奥方の気持ちのわかる、大人の女性になっていた。

 やがて雁助が目を覚ますと、うめは早々に加納屋に引き上げる。新次郎らの労いの言葉にも「いいや」ときっぱり否定する態度が清々しい(この「いいや」というセリフについては、3月3日の朝日新聞「折々のことば」欄で、鷲田清一先生がびしっと取り上げている)。加納屋に戻ってから、宣ちゃん(吉岡里帆)たちに(相手があさではなく、お嬢さんたちというところがまたかわいらしい!)切ない恋心を打ち明けたうめは、乙女の顔をしていた。そんなうめのLOVEにはしゃぐ千代の前には、後に夫となる東柳(工藤阿須加)が現れて……。

 ふだんポーカーフェイスなうめの、子どもっぽい表情に驚くことなく「やらかく」受けとめる、あさや千代。先週放送された、第24週「おばあちゃんの大仕事」では、あさの姑・よの(風吹ジュン)までもが「なんでどす?」を連呼した末に「びっくりぽん」な大往生を遂げた。長年よのに仕えたかの(楠見薫)が加納屋を去るときには、うめが「無理したらあきまへんで」と声をかけることで、別れの淋しさが鮮やかに笑顔に変わった。本作に登場する女たちは、上手に気持ちをあやし合って、前に向かっていく。ヒロインをとりまくキャラクターに至るまで、年齢も、立場も、さまざまな女たちに潜んでいる、娘の顔、母の顔、仕事の顔、夜の顔、いろいろな顔がふとした拍子に出てきても、ちゃんと笑顔で受けとめてくれる人がいる安心感は、どんなに暗い夜でも、必ず新しい朝が来ると信じられる、彼女たちの強さになっているのかもしれない。社会が設定した役割をしなやかに飛び越え、おばさんになっても、おばあちゃんになっても、乙女のままに自分らしく、自分の道を突き進んでいくヒロインたちは、最終回でどんな「びっくりぽん」な朝を迎えるのだろうか。

NHK連続テレビ小説「あさが来た」

NHK 毎週月~土曜日 午前8時00分~ 午後0時45分~

原案/古川智映子『小説 土佐堀川』

脚本/大森美香

演出/西谷真一、新田真三、佐々木善春、尾崎裕和、中野亮平、鈴木航

プロデュース/福岡利武、熊野律時

音楽/林ゆうき

出演/波瑠、玉木宏、柄本佑 ディーン・フジオカ、友近、桐山照史、

近藤正臣、風吹ジュン、宮崎あおい他

制作/NHK大阪局

連続テレビ小説 あさが来た Part1 (NHKドラマ・ガイド)

(NHK出版)


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