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新世界★ドローンウォーズ

​​舞台「来てけつかるべき新世界」

 久しぶりに声をあげて大笑いした。

 冒頭の「やっぱり(CD)盤がないとなぁ」でくすぐられ、串カツの二度づけ禁止に一石を投じる「うずら理論」で完全にスイッチオン。そこから繰り広げられるドローンvsおっさん、野良ロボットvsおっさん、人工知能vsおっさん、合間に挟まるおっさんvsおっさん、そして最終的にはサイ(バー)ゼリアvs(ギ)ガストの戦いまで、全編笑い通しだった。

 ヨーロッパ企画第35回公演「来てけつかるべき新世界」。舞台は大阪、通天閣を臨む新世界のはずれ。看板娘のまなつ(藤谷理子)が切り盛りする昔ながらの串カツ屋の店先に、こちらも昔ながらの常連のおっさんら(石田剛太、諏訪雅、土佐和成、本多力)がたむろしている。話題は最近、新世界上空にまで進出してきたドローンについて。空の道が整備されて宅配ドローンや観光ドローンが飛び交ってじゃまくさいのう、といった話の流れに、なるほどこれは今からちょっと未来の話なのね、と心のなかで頷く。

 新しモノ好きの中華料理屋の親父(中川晴樹)が導入した出前ドローンが一騒動を巻き起こし、妻を亡くしてから引きこもっているまなつの父(角田貴志)が、ちょいちょい二階の窓から顔を出しては話をまぜっかえす。まなつに恋するIT企業のCEO(酒井善史)がiPadをぶらさげた観光ドローンで東京・汐留から串カツを買いにやってきたかと思えば、機械嫌いのさびれたコインランドリー店主(福田転球)は、いつのまにか家に入り込んで勝手に充電している野良ロボットを追い出すのに忙しい。その息子で東京から挫折して帰ってきた売れない芸人(金丸慎太郎)、虎キチのホームレス(永野宗典)、ビリケンさんを頭に乗せた歌姫(西村直子)ら、登場人物たちそれぞれが、AIやロボット、VRといった最新のテクノロジー相手に丁々発止を繰り広げていく。

 脚本・演出の上田誠曰く“じゃりん子チエ×ブレードランナー”。さらにそこに“吉本新喜劇味”を加えた、まさに“新世界コメディ”の本作。公式サイトのトップに【上演時間について】というお知らせがあるのだが、プレビュー公演前は「約2時間20分」だったのが、本公演初日後には「約2時間10分となりました。(上演内容は変更していません)」と変更されている。映画『ソーシャルネットワーク』メソッドではないが、テンポのいい大阪弁の台詞のかけあいが、繰り返し演じるうちにどんどん勢いを増していったのだろう。上演時間2時間10分休憩なしだが、息つく間もなく終わってしまったという印象だ。

 上田は以前、構成・脚本を手がけた深夜アニメ『四畳半神話体系』の公式読本のなかで、こんなことを言っていた。

 「僕は、まずシステムがあって、そのシステムに人が翻弄される、

  みたいのが好きなんですよ。」『四畳半神話体系』(太田出版)68頁より

 本作はまさにその言葉どおり、ドローンやAI、ロボット、VRといった最新テクノロジーが組み込まれた社会(システム)のなかで、大阪のおっさんらが右往左往するお話だ。しかし彼らは決して一方的に翻弄されっぱなしではない。新たなテクノロジーを「来てけつからんかい!」と勇ましく迎え撃ち、対等にどつきどつかれ、なんだかんだで共存していく。

 そこに「人間とは何ぞや?」的な自問自答はなく、あるのは単純に「便利か便利でないか」「納得できるかできないか」「面白いか面白くないか」といったリアルな皮膚感覚のみ。この、いわば“新世界力”こそがシンギュラリティを超えていく人間のタフさなのだろうと、妙に納得してしまう。とはいえ、搭載されているデータさえ同じならハードが変わってもそのモノに抱いていた愛着は引き継がれるのか? 自分好みに作り上げたVRの世界と現実世界、現実の方が幸せだと言い切れるのか? といった本質的な問いかけもちょいちょい差し込まれてきて油断ならないのだが。

 普段、舞台より映画を見ることが多い人間にとって、舞台の最大の魅力は、その場で笑ったり手を叩いたりというリアクションができることだ。本作には、そんな舞台を観に行く楽しさを久々に堪能させてもらった。愛すべきおっさんらのワイワイガヤガヤを見ているだけの、最高にバカバカしくて、ひたすら幸せな2時間10分。こんなに贅沢な時間の使い方があるだろうか。

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ヨーロッパ企画第35回公演

「来てけつかるべき新世界」

作・演出=上田誠 

音楽=キセル

出演=石田剛太 酒井善史 角田貴志 諏訪雅 土佐和成 中川晴樹 永野宗典 西村直子 本多力/金丸慎太郎 藤谷理子 福田転球

美術:長田佳代子 照明:葛西健一 音響:宮田充規 衣装:清川敦子 映像:大見康裕 演出助手:山田翠 大歳倫弘 舞台監督:筒井昭善×大鹿展明

協力:よしもとクリエイティブ・エージェンシー カクバリズム

京都芸術センター制作支援事業

東京公演 9/16(金)〜9/25(日)

会場:本多劇場 当日券あり

以降、広島、福岡、大阪、四日市、高知、横浜、名古屋にて公演

詳しくは公演公式サイト

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