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ディテールのおいしい映画


映画『バースデーカード』

 誕生日には毎年、10歳で天国に行った母親(宮崎あおい)からバースデーカードが届く、のんちゃんこと本作のヒロイン・紀子(橋本愛)。生前に、娘の成長を想像して、学校をサボって映画館へ行くことを勧めたり、キスの手ほどきをしたり、と趣向を凝らし、書きためた、母親の愛情たっぷりの内容だが、19歳になった紀子は、もういない母親に人生を決められているような気がして、素直に手紙を開く気持ちになれなくなってしまう。そばにいない人の言葉が、まっすぐ届かない時期が、人生にはある(もちろん、その逆だってある)。聡明な紀子の母は、その残酷な事実もわかっていただけに、紀子の成長が切ない。

 作中で手紙とは逆に、食べものが紀子の人生を形作っていく変化が、効果的に描かれていく。夕食のとき、パパ(ユースケ・サンタマリア)のクイズのヒントになった、ママのお手製サラダ。引っ込み思案な紀子が、クラスの人気者になれた、12歳の誕生日に、手紙で教わったチョコマフィン。19歳の誕生日に、パパとケンカして家を飛び出した紀子が、偶然再会し、後に結婚する立石くん(中村蒼)の作ってくれたラーメン。そのときどきの紀子に必要な食べものが、彼女の人生をよき方向へ動かしていく。鈴木家のピクニックに欠かせないカレーにも、何かストーリーがあれば……と思ってしまうのは、あざと過ぎる、か。ママのピンク・レディーの思い出や、のんちゃんと夏の友だちをつなぐ、銀杏BOYSの「銀河鉄道の夜」「BABYBABY」など、歌のディテールもおいしい映画だ。

『バースデーカード』

監督・脚本/吉田康弘

出演/橋本愛、ユースケ・サンタマリア、須賀健太、中村蒼、谷原章介、木村多江、宮崎あおいほか

主題歌/木村カエラ「向日葵」 作詞木村カエラ、作曲岸田繁(くるり)

配給/東映 製作年/2016年 製作国/日本

カラー123分 

新宿バルト9ほか全国公開中

©2016「バースデーカード」製作委員会

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