top of page

2021年映画ベストテン+3

石村加奈のベスト10+3

©︎2020「子供はわかってあげない」製作委員会 ©︎田島列島/講談社




 年の瀬も押し迫る“いま”の気分を反映したベストテン。コロナ禍の癒やしを、おのずと映画に求めていたのだろう、1~3位を観終わったときの、幸福感をうっとりと思い出している。『1秒先の彼女』で、せっかちな主人公シャオチー(リー・ペイユー)が迎える、奇跡のような結末に、励まされた夏の日。12月に慌てて劇場に駆け込んだ『ボストン市庁舎』の、274分という長尺の鑑賞後、客席からわき起こった拍手のあたたかさ。「鷹の様子が変だ」という市民からの電話に、鷹揚に対応する職員とのやりとりに、フレデリック・ワイズマン監督のやさしい眼差しが重なった。大きなスクリーンで、『アメリカン・ユートピア』や『DUNE/デューン 砂の惑星』を、大勢の観客と共有したよろこびも忘れがたい。今年は『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』など、ドキュメンタリーも含め、音楽映画が豊作だった。ティモシー・シャラメの匂い立つような魅力は、来年も続くだろう。『ドライブ・マイ・カー』は、ずっと気になっていた濱口映画の車の謎に、自分なりのこたえを見いだせた気がする。主人公・家福(西島秀俊)の愛車サーブ900を運転する、みさき(三浦透子)と犬の関係性も理想的だった。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の、ジェーン・カンピオン監督らしいパワフルな結末、『ラストナイト・イン・ソーホー』の、エドガー・ライト監督ならではの毒気のある、美しい世界観にも、ワクワクした。『ノマドランド』は、主人公ファーン(フランシス・マクドーマンド)の境遇にシンパシーを感じて、おそろしかった。若い頃は平気だったことが、年を取ったいま、できなくなってしまっていることを思い知ったというのか。似たようなこわさを『ファーザー』の、81歳の主人公にも感じた。そんなリアリティに怯えながらも、『ミナリ』の祖母スンジャ(ユン・ヨジュン)が孫に語った「見えないより、見えた方がいい」というセリフは印象的だった。映画は、現実を、いまを、映し出しているのだと思う。『子供はわかってあげない』の、登場人物たちそれぞれの、現実との向き合い方が、とても好きだった。


+3

久しぶりに読んだ山本文緒の短編小説は、『ブラック・ティー』の頃と変わらぬ、鋭い切れ味に加え、登場人物へのやわらかく、老練な眼差しに驚かされた。闇の中に置き去りにせず、かすかな光を与える読後感には、救いを感じた。「子供おばさん」を読み終えたとき、もう山本文緒の新刊が読めないことをとても悲しく思った。


秋雨の寒い日に出かけた展覧会。おびたたしい数の作品群からあふれでていた、タマへの愛情、「寒山拾得2020」で描かれる、ごきげんな笑顔。描くことが、生きることそのものであるような、邪気のない近作に、心がホクホクした。


夏からしょげる出来事が続き、12年に一度の丑年御縁年を迎える湯殿山神社本宮へ出かけることに。自然と一体化した、ふしぎな空間だった。




岩根彰子のベスト10+3

© 2021 愛について語るときにイケダの語ること




 2021年は、音楽映画と女たちの映画に勇気づけられることが多かった。『アメリカン・ユートピア』は見応えのあるショーと力強いメッセージを両立させてしまう完成度の高さに感服。「Everybody’s Coming to My House」を自分が歌うと若干皮肉めいたニュアンスが加わるが、同じ曲を高校生たちが歌うとそこには素直な歓迎の気持ちが表れるというデイヴィッド・バーンの語りが印象的だ。冗談めかして話しながらも、今の時代はその「素直な歓迎の気持ち」を大切にするべきだろうという彼の意志が作品全体を貫いている。意識をアップデートしていくことの格好よさをエンターテインメントで見せてもらった。ウッドストックと同じ年の夏にハーレムで開催された野外音楽イベント、ハーレム・カルチュラル・フェスティバル。埋れていたその記録映像を発掘し、50年ぶりに蘇らせた『サマー・オブ・ソウル』は、素晴らしいパフォーマンスをたっぷり見せつつ、BLMへとつながるアメリカで生きる黒人たちの歴史を浮き彫りする構成が見事。ニーナ・シモンの「Backlash Blues」には本当に体がしびれた。

 『イン・ザ・スープ』のアレグザンダー・ロックウェル監督の新作『スウィート・シング』は、90年代インディーズ映画の持ち味ともいえる、つないだ手をふっと放すようなエンディングとは反対に、世界への信頼がにじむ結末がとてもうれしかった。モノクロ映像に時折、挟み込まれるカラーの美しさも忘れられない。大好きだったドラマ「おかしの家」にも登場した“天使”の再登板に驚き、笑った『アジアの天使』。日本人も韓国人も、天使でさえも映画的に都合のいい存在として描かれない、嘘のない映画だ。

 『君は永遠にそいつらより若い』『17歳の瞳に映る世界』『モロッコ 彼女たちの朝』は、日本、アメリカ、モロッコという異なる国を舞台に、それぞれの形で描かれるシスターフッドが力強い。しかし、なんといっても今年のシスターフッド映画のベストは『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』。予想以上にホラー度が高く、上映中何度か(これはもう無理かも…)と思っていたが、後半、とある亡霊が大勢出てきたあたりから(エリー! 絶対負けるな!)と感情が戦闘モードにシフト。クライマックスの「嫌よ」の瞬間には心の中でガッツポーズをしていた。エリーとサンディの、そして画面の向こうの二人と私たちのバディムービーでもあった。

 いろいろな面で“アップデート”を感じられる作品が多かった一方、『コレクティブ 国家の嘘』が描いたルーマニアの“アップデートできなさ”は、日本の現状とあまりにも重なっていて苦しかった。まるでフィクションのような劇的な展開で、映画としての見応えがある分、なおさらしんどい。そんな、いろいろな作品を見たなかで、ある場面を何度も頭の中で繰り返してしまったのが『愛について語るときにイケダの語ること』。生まれつき軟骨四肢無形成症という障害を持ち、40歳目前でスキルス性胃がんステージ4と診断された池田英彦が、20年来の友人である脚本家・真野勝成の協力を得てセッティングした撮影のための“理想のデート”。その最中、フィクションの中にいるはずのイケダがその枠を外してしまう瞬間の、愛しさと切なさと心弱さと愚かしさがたまらなかった。



+3

キアロスタミ監督の特集上映で初めて見たのだが、ラストシーンの切れ味の鋭さに驚かされた。『友だちのうちはどこ?』も『そして人生はつづく』も『オリーブの林をぬけて』も、ラストシーンの味わいがしみじみと良い作品だが、『トラベラー』の乾いたラストはまた別の味わい。


シリーズファイナル2本立て公演の前売り特典で過去作すべてをオンラインで視聴。将門も太郎も朝も楽もシューマイもモツも海荷も茉莉も瑠璃色も(逆)おとめも白子もおばけちゃんも点滅も群青もビーチも水星も、みんなが記憶に染み込んだ。


とにかくうちに帰ります」津村記久子(新潮文庫)

なぜ今まで読んでこなかったのか! と自分で自分を罵倒したくなるほど、今年初めて読みイチコロで参ってしまった津村記久子作品。なかでも、雨の中ひたすら家へ帰ろうとするこの作品で描かれる、切実な「屋根があってありがたい」気持ちにたまらなく共感してしまった。まだ未読作が多いという幸せを噛みしめつつ、今さらのファン宣言。

Comments


bottom of page