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2022年映画ベストテン+3

岩根彰子のベスト10+3




















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DVD発売予定




 昨年のベストテンで「2021年は、音楽映画と女たちの映画に勇気づけられることが多かった」と書いたが、今年もまた「女の生き方」を描いた映画が印象に残る一年だった。なかでも最も胸に迫ったのは、主人公ブリジットを演じるケリー・オサリヴァン自身が脚本を手がけた「セイント・フランシス」。生理、妊娠、中絶といった女の体に起こるあれこれを「日常」として描くスタンスが新鮮で、見ていて居心地よかった。教会の告解室でフランシスから「もっと大きな罪はない?」と聞かれたブリジットが、きっぱりと放つ「ないわ」という答えは、中絶と外側から押し付けられる罪悪感を切り離す、ささやかだけれど大きな一歩だったとおもう。それとは対照的に、現実世界ではアメリカ連邦最高裁が女性の人工中絶権を認めた判例を破棄。「グロリアス 世界を動かした女たち」で70年代に人工中絶合法化を目指す活動中の女性が放った「男性が妊娠できれば中絶は神聖な行為になる」という皮肉や、堂々巡りのメタファーとして描かれた「このバス、ずっと同じところを走ってない?」という一言が、これほど“今”に響くとは……と愕然とする。

 現実とのリンクという意味では「PLAN75」の、背中がひやりとするようなリアリティも見事だった。窓口業務を担当している磯村勇斗のおじさんが大切に保管していた過去の献血手帳の分厚さで彼のこれまでの人生を想像させた後、「今はこれ」「味気ないよな」とたった一枚になってしまった献血カードを見せるシーンが忘れられない。徹底的にマニュアル化された申し込み手続きや、雑談が盛り上がっても面談を長引かせないよう終了時間を知らせるブザーなど、効率重視の社会の帰結点が75歳での安楽死。そんな風に無駄を省いて生まれた余剰を享受して生きる世界を、若い世代だって無邪気に引き受けられるだろうか。そんな疑問への答えを、磯村勇斗と河合優実が揺れる瞳でリアルに演じていた。「ドライビング・バニー」で描かれるのも、正しいけれど冷淡な社会とその底辺で生きるシングルマザーとの対立。ユーモアと怒りの配合が絶妙な語り口で、エシー・デイヴィス演じるバニーのファイティングスピリッツに力づけられた。

 今年は「よだかの片想い」の松井玲奈、「ケイコ 目を澄ませて」の岸井ゆきの、「ちょっと思い出しただけ」の伊藤沙莉ら、若手女優たちがそれぞれ魅力的な作品で魅力的な演技を披露していたのも嬉しかった。原作がとても好きだった「帰らない日曜日」も、ヒロインの成長譚が匂いたつような映像美で綴られていて期待以上。

 レオス・カラックスの「アネット」、チャン・イーモウの「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」 など、自分のスタイルを確立している監督たちが、その個性を最大限に発揮した作品も今年の大きな収穫だった。「ベルファスト」も同様に、ケネス・ブラナー監督でなければ描けない一作だった。暴動で荒らされたスーパーから洗剤を持って帰ってきたバディが「なんでそんなもの盗ってきたの!」と母親に詰められて返した、「か……環境に優しいから」がツボにはまって何度思い出し笑いさせられたことか。

 かなり前から製作中と聞いていたヤン ヨンヒ監督の「スープとイデオロギー」がようやく見られたことも今年の収穫。済州4・3事件のことは知識として知っていたが、実際にその地に掲げられた犠牲者たちの膨大な名前を目にすると、ただただ打ちのめされる。


+3

飯田橋ギンレイホールが建物老朽化のために閉館してしまった。ほぼ20年来の年間パス持ちで、行き場所がないときに駆けこめるセーフスペースのような場所でもあった。早く移転先が決まることを祈るばかり。


韓国文学の翻訳家として活躍する斉藤真理子さんが、「82年生まれ キム・ジヨン」を起点に時代を遡り、韓国文学を読み解く一冊。コロナ前にスタートした企画で、わずかながらお手伝いしたこともあり、無事に本になって感無量。そんな個人的感情は無しにしても韓国文学の入門書として、さらに日本と韓国との関係を考えるための指南書としても一級品。


コロナ以後、遠ざかっていた観劇にはかなり足が向くようになったが、ライブの楽しみからは随分離れてしまったなと、在日ファンクの生演奏を聞きながらしみじみ。来年はライブに行きたい。声を出して楽しめるのはいつになるだろうか。




石村加奈のベストテン+3



 5月の肌寒い夜、みなとみらいにあるビルの屋上で仕事の再開を待っていたら、海の方から、突然おおきな音が鳴りだして、花火が上がりはじめた。花火は『トップガン マーヴェリック』で来日していたトム・クルーズのイベントと判明。改めてトムにときめくと同時に、疲れも吹き飛んだ。今年は、マーヴェリックことピート・ミッチェルを筆頭に、『アネット』のレオス・カラックス、『RRR』のS・S・ラージャマウリら、かつて胸を高鳴らせた、映画の主人公や監督たちの変わらず活躍する姿に、たくさんの元気をもらった。コロナ禍で、知らぬうちに疲労や不安が積もっているのだろう。個人的な物語と、巨大な歴史を巧みに組み合わせて、いまの映画に仕上げた『パラレル・マザーズ』『アムステルダム』『ミセス・ハリス、パリへ行く』の鮮やかさには、ハッとさせられた。『わたしは最悪。』や『ちょっと思い出しただけ』の愉快な展開にも、ワクワクした。松居大悟監督の『』は、Ring Ring Lonely Rollsの主題歌「スロウタイム」も耳に残っている(来年は、ライブに行きたい)。ボクシングのイメージを裏切る主人公・ケイコ(岸井ゆきの)の『ケイコ 目を澄ませて』も印象的だった。ケイコの聴覚障がいについて「話したって、人はひとりでしょ」という具合で、淡々と捉える描き方もあたらしかった(『LOVE LIFE』にも感じた)。『マイスモールランド』のサーリャ(嵐莉菜)や、『千夜、一夜』の若松さん(田中裕子)、『PLAN75』のミチさん(倍賞千恵子)やヒロム(磯村勇斗)の姿から、世界の複雑さにふれることができたのも、豊かな映画体験になった。人も社会も、そんなに簡単じゃない。作中、迷っている時間を贅沢な時間と語るシーンがあった『窓辺にて』は、まさしく贅沢な映画だった。現代的な主人公を、稲垣吾郎が好演する。『LOVE LIFE』で、主人公夫婦を演じた木村文乃&永山絢斗の芝居は、ずっと見ていたくなった(特にラストシーン後の、ふたりの行方が気になった)。『冬薔薇』の、ガット船上でにぎやかなランチタイムを繰り広げる、小林薫、石橋蓮司、伊武雅刀、笠松伴助(ときどき真木蔵人)らが扮する、おじさんたちもチャーミングだった。そういう意味では、稲垣吾郎ほど、パフェの似合うおじさんもなかなかいないと思う。ミセス・ハリス(レスリー・マンヴィル)のあかるさも忘れられない。

+3


パラレル・マザーズ』と同日上映された、ペドロ・アルモドバル監督が、ジャン・コクトーの戯曲「人間の声」を翻案した短編映画。ティルダ・スウィントンと堂々渡り合う、犬のダッシュが素晴らしい!

ヨーロッパ企画第41回公演『あんなに優しかったゴーレム

雨の中、一緒に観劇した人たちと過ごした、お芝居前後の時間も含めて、今年いちばん優しい時間だった。ゴーレムも優しかった。

初めて行った、横須賀美術館。目の前に広がる海をいかした窓の設計もユニーク。展示されていた、着物のデザインも素敵だったな。









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