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2023年映画ベストテン+3

石村加奈のベストテン+3


映画「枯れ葉」より © Sputnik Photo: Malla Hukkanen



フェイブルマンズ」のミシェル・ウィリアムズ、「TAR/ター」のケイト・ブランシェット、「別れる決心」のタン・ウェイ、「さよなら ほやマン」の松金よね子、「ポトフ 美食家と料理人」のジュリエット・ビノシュらが体現した、もう若くはない女性たちのタフな生命力が印象的だった。ギャスパー・ノエが「VORTEX ヴォルテックス」で描いてみせた老い(と死)は、面食らうほどリアルで、いたたまれなくなりつつ、人間の孤独を思い知った。

 前述の女性像とは対照的だが、「VORTEX ヴォルテックス」で主人公夫婦の、心臓病を患う夫を演じたダリオ・アルジェント、「イニシェリン島の精霊」のブレンダン・グリーソンの、静かだが、ふてぶてしいほどの存在感も迫力があった。観ているうちに、登場人物たちと一緒にどんちゃんを育てているような、にぎやかな気分になっていた「おーい!どんちゃん」の親近感は、沖田修一監督の手腕によるものだろう。実在の事件をベースに、重厚な映画に仕上げた「Winny」も、松本優作監督の凄さだ。


 突然の引退宣言をあっさり覆したアキ・カウリスマキ監督の、6年ぶりの新作「枯れ葉」を観るよろこび、今年もスクリーンで、トム・クルーズに会えるしあわせは格別だ。年に数回、ここぞというとき(家族の誕生日とか、十何年続いている忘年会とか)にだけ、ケーキを買いに行く店がある(今年は、たしか3回行った)。うちから30分くらい離れた駅を降りてから、坂を下って上って、また坂を上って下って、もうひと坂上がった辺鄙な場所にあるので、気軽には行かれないのだ。でも、いつも坂の途中で、誰かのためにケーキを買いに行けるなんて、しあわせだなとしみじみ思う。「枯れ葉」を観て、ポロポロ泣きながら、そんなことを思いだした。

 来年もたまにはケーキを買って浮かれたり、映画についてあれこれ喋ったりできるように、頑張ろう。


+3

愛すべき登場人物たち! 白石加代子扮する祖母と若林(King & Prince髙橋海人)とのやりとりが好きだった。「下剋上球児」も、今年面白かったドラマ。『だが〜』では、実在の人物に寄せながら、それぞれの役割をまっとうする、演技の技量を楽しみ、「下剋上〜」では、実際に野球ができる野球部員たちの、素の魅力を引き出した芝居の熱量に圧倒された。


ずっと観てみたいと思っていた、加藤拓也の舞台を、シアタートラムで初観劇。主人公の幼なじみ役で、鈴木杏が舞台に現れた途端、芝居の色がくっきりした。凄い存在感。主人公の「意外とやってないこと、あったな」というセリフの余韻が残る。


河津浜の月光浴

年に何度か、近場の温泉へ出かける私設温泉部で出かけた河津温泉。旅館そばの浜辺で見上げた、秋の満月が神々しかった。



原題:KUOLLEET LEHDET/英語題:FALLEN LEAVES

監督・脚本/アキ・カウリスマキ 出演/アルマ・ポウスティ、ユッシ・ヴァタネンほか 配給/ユーロスペース

製作年/2023年 製作国/フィンランド・ドイツ 81分 

12月15日からユーロスペースほか全国公開

© Sputnik








岩根彰子のベストテン+3


映画「大いなる自由」より  ©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions  全国順次公開中

 

4.  対峙

10. 正欲


 どう生きるかというのは、結局、なにを選択するかということなんだなあ、などと2023年に見た映画を一作一作思い返し、あらためて実感した年の瀬。今年もっともしびれたのは、ドイツで1994年まで施行されていた男性同性愛を禁じる法律「刑法175条」のもとで、繰り返し投獄されながらも同性愛者として生きるハンス(フランツ・ロゴフスキ)の人生を描いた「大いなる自由」の結末での彼の選択だった。本当の「自由」がそこにあった。反対に「エンパイア・オブ・ライト」でしびれたのは映画冒頭の数分間。朝、出勤してきたヒラリー(オリヴィア・コールマン)がロビーの明かりをつけ、静かに開場準備を進めていく一連のシークエンスが静かで美しく、ほぼ貸切状態の吉祥寺オデヲンで観たときには客席とスクリーンの境界線がぼやけるような不思議な感覚に陥った。スティーブンの母親が病院でヒラリーに手を差し出したときの、手のひらの向きも忘れられない。一瞬で見せるシスターフッド! 「星くずの片隅で」で切り取られた、香港の街角のやさしい光も心に沁みた。ここでも中年男ザクの最後の選択がしみじみといい。高校で起きた銃乱射事件の被害者と加害者の両親の会話劇「対峙」では、久しぶりに見たマーサ・プリンプトンが素晴らしい演技を披露していて嬉しかった。映画自体の一部の隙もない構成も見事。ついにエンディングを迎えた「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」もまた、登場人物たちそれぞれの選択が最高だった。ラストにかかる“Dog Days Are Over”の祝祭感! 今年、何度聞いたことか。 

 

ウーマン・トーキング 私たちの選択」「あのこと」「燃えあがる女性記者たち」と、今年も女たちの映画は強かった。なかでもインドの被差別カーストの女性たちが経営する新聞社の取り組みを追った「燃えあがる女性記者たち」の力強さは出色。次世代の人たちに報道が抑圧されていたインドであなたたちは何をしていたのと聞かれたとき、我が社の記者は胸をはって「権力の座にある人々に責任を問い続けた」と答えられるだろう、という言葉には、背中をどやしつけられたような気分だった。

 

枯れ葉」のラジオから流れるウクライナのニュース。そんな世界でも、ちゃんと生きるための努力を捨てないアンサとホラッパの姿、そして下手くそなウインクにも励まされた。「正欲」は、物語の中核になる欲望がきちんと官能的に描かれていたことに作り手の覚悟を感じた。新垣結衣が本作に続いて「異国日記」に主演するというのも本当に楽しみ。これまでの立ち位置から、かなり大きな歩幅で一歩を踏み出していくに違いない。

 

+3

公開時に見逃し、どうしても劇場で観たいと思って未見のままだった本作をようやく鑑賞。中途半端なカトリック信者だが(だからこそ、かも)、後半のヒロインの心の動きが手に取るようにわかって不思議な気分での帰り道、しばらく会えていなかった妹と偶然、道端ではちあわせるという僥倖。思わず空を仰いだ。

 

「エンパイア・オブ・ライト」の劇中で、オリヴィア・コールマンがはじめて自分の働く劇場で観た映画。未見だったので配信で鑑賞したのだが、ピーター・セラーズがたまらなく魅力的だった。メルヴィン・ダグラス演じる老富豪の名言「人生は心のあり方だ」(Life is a state of mind.)に加え、しゃがれ声の「チャーンシー」という呼びかけが忘れられない。

 

詩集は読んでいたが、エッセイは読んだことのなかった石垣りん。働く女の大先輩として、響く言葉であふれていた。りんさんに、私の表札は駅の看板描きだった職人さんにブリキで作ってもらったものなんですよ、と伝えたくなった。



原題:Große Freiheit/英題:Great Freedom

監督・脚本:セバスティアン・マイゼ/共同脚本:トーマス・ライダー/出演:フランツ・ロゴフスキ、ゲオルク・フリードリヒ、アントン・フォン・ルケ、トーマス・プレン ほか  


2021年/オーストリア、ドイツ/116分/1:1.85/カラー

字幕翻訳:今井祥子/字幕監修:柳原伸洋

配給:Bunkamura 全国順次公開中

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