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2024年映画ベストテン+3

石村加奈のベストテン+3


映画「ホールドオーバーズ置いてけぼりのホリディ」より Seacia Pavao / (C) 2024 FOCUS FEATURES LLC


 世界各地で戦争や紛争が続くなか、日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞した2024年。「ホールドオーバーズ置いてけぼりのホリディ」「オッペンハイマー」をはじめ、「人間の境界」「関心領域」「シビルウォー アメリカ最後の日」「ホワイトバード はじまりのワンダー」など、それぞれの監督らしい、戦争の描き方が印象的だった。

ラストマイル」は、野木亜紀子の脚本の力に圧倒された。誰が演じても、損なわれることのない、骨太の物語には、誰が主人公というわけではなく、観客を巻き込む(「アンナチュラル」と「MIU404」からの登場人物たちの出演も、うまく作用した)力がみなぎっていた。いまの日本を象徴する映画だと感じた。


花嫁はどこへ?」の、2人の花嫁の清々しさは、今年、心惹かれた「ナミビアの砂漠」や「虎に翼」の主人公たちにも通ずる。何事も他人のせいにせず、人生で起きるすべてを自分で引き受ける、あたらしい世代の女性像が眩しく、逞しかった。若い彼女たちに触発されて、年配の女性たちのささやかな変化まで見せてくれた「花嫁はどこへ?」の、駅の売店のおばちゃんが甘い菓子を食べるシーンや、義母のレンコンの炒めもののエピソードにも、グッときた。「ホールドオーバーズ〜」も然り、いろいろな世代が影響し合いながら、世界が回っていく普遍性の、肯定的な捉え方に、とても勇気づけられた。

ホールドオーバーズ~」はまさにホリディシーズンの最近、観返したら、作品の世界観をより堪能できて、心があたたまった。「ホールドオーバーズ~」も「花嫁はどこへ?」も、いまより少し前の時代設定というところもおもしろい共通点だ。「パストライブス/再会」「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」「HAPPYEND」の、ちょっとなつかしいトーンのロマンチックなムードは、個人的な今年の気分とマッチしていた気がする。特別な理由は思いあたらないのだが、振り返ればノスタルジックなものに魅せられた一年だった。


ドッグマン」や「瞳をとじて」の犬たちをはじめ、動物たちが静かに物語を動かす展開も痛快だった。「悪は存在しない」の魅力も、人為の及ばぬ、おおきな自然について怯まず描いた点にあったように思う。


+3

8月に新宿・紀伊國屋ホールで観劇。8回目の上演となるそうだが、前回(2014年)は観られなかったので、何十年ぶりになる(紀伊國屋ホールも久しぶりだった)。ダイナミックな玉置玲央に導かれるように、昔の記憶が一気によみがえった、ふしぎな時間だった。鴻上尚史の、まるっこい、ちいさな字でびっしり書かれた「ごあいさつ」が、老眼なのになぜかちゃんと読めて、感激したり⁉︎


主人公のお兄ちゃんを演じた、柳楽優弥の佇まいが、「誰も知らない」の長男を彷彿とさせて、すごく好きだった。回を重ねるごとに、物語が失速せず、魅力的に加速していき、事件解決後のエピソードもユニークだった。今年、飛躍した印象の強い、坂東龍汰や岡山天音の好演もすばらしかった。


ノストラダムスの大予言やコロナ禍など、2人の主人公、飛馬と不三子が半世紀にわたって体感する、世間の空気感を皮膚感覚で知っているだけに、思いとは裏腹に、空回りしていく、彼らの心の葛藤、それぞれの人生の行方が他人事とは思えなかった。だからこそ終盤、都内のこども食堂で2人の人生が交差し、紡がれていく物語の結末に胸を打たれた。不三子の言葉に、「あきらめるということはもう愛せないということなのだ」とあった。うまくいかないこともたくさんあったけれども、彼らは、自分の人生を愛することをあきらめなかったのだと思うと、大いに励まされた。




原題・英題/The Holdovers  監督/アレクサンダー・ペイン  脚本/デヴィッド・ヘミングソン  出演/ポール・ジアマッティ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサほか 配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画 製作年/2023 製作国/アメリカ カラー133分

 

Seacia Pavao / (C) 2024 FOCUS FEATURES LLC






岩根彰子のベストテン+3


『ナミビアの砂漠』©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会   配給:ハピネットファントム・スタジオ   


 



荒野にひとり、立つ。2024年の映画では、そんな主人公たちをたくさん見たような気がする。走ったり、甘えたり、暴れたり、怠けたり、誤魔化したりしながら自分の足で自分の人生を歩いていく主人公・カナがたまらなく魅力的だった「ナミビアの砂漠」。カナを演じた河合優実の身体性に裏打ちされた演技も素晴らしかったが、なにより作品全体に上の世代への妙な目配せがまったくなかったところがいい。登場人物たちの誰にも共感できないことが嬉しくて楽しい、という新鮮な感情を味わえた。

初期のリュック・ベッソン監督作を見たときの高揚感が蘇った「DOGMAN ドッグマン」。奇想天外な物語が圧巻の映像美で描かれた「哀れなるものたち。どちらも主人公が、「〇〇はこうあるべき」という社会通念から自由に生きる姿が凛々しい。


「未来を選ぶ」ことの輝きを描いた作品も印象的だった。花嫁はどこへ行ったの? から始まり、花嫁はどこへ行くの? という結末へたどり着く「花嫁はどこへ?」は、取り違えられた二人の花嫁が「未来を選べた」ことの喜びに満ちたラストが眩しい。家父長制という枠そのものには批判の目を向けつつ、枠の中で生きる一人ひとりの生き方は否定せず、尊重する描き方も魅力的だった。年齢も立場も生き方も違う3人の人生がひととき交差し、それぞれが少しだけ明るい方へとハンドルを切る「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」。個人的には舞台が自分の生まれ年だったことで、独特の感慨も生まれた。性自認に悩む8歳の少女が、夏のバカンスで訪れた小さな村で自分が本当に望む自分の姿を見つけていく「ミツバチと私」も、養蜂場を営む大叔母をはじめ、母親や祖母、兄姉、友達ら多様な人たちとの関わりを経て、「自分はこうありたい」という願いを強くしていく主人公の静かで強いまなざしが心に残った。


自分もあの場所の住人を似たようなことをしていないだろうかと思うと、手足の先が冷えるような恐怖を感じた「関心領域」。他人に向ける好意や善意の方向性が微妙にズレている母と息子の噛み合わない日々を描いた「僕らの世界が交わるまで」も、どこか自分と重ねて複雑な気持ちで見てしまったが、同時にオリジナル脚本・初監督とは思えないジェシー・アイゼンバーグの手腕に唸らされた。

 

密輸1970」は、徹頭徹尾、映画の楽しさを堪能できた一作。同い年のキム・ヘス姐さんがカッコよすぎて痺れた。中国と北朝鮮との国境に位置する延吉で、偶然出会った3人の男女が過ごした5日間を描いた「国境ナイトクルージング」は、光と音が印象的な映画だった。原題は「燃冬」、英題は「The Breaking Ice」。実際に作品を見ると、邦題に少々上滑り感を持たなくはないが、このタイトルだから足を運んだ人もいるのではないか。自分も含め、Fishmans「ナイトクルージング」が身体に沁み込んでいる世代は特に。


+3

数年前から韓国文学の面白さに圧倒されてきて、ついに今年、ハン・ガン氏がノーベル文学賞を受賞。今年、邦訳が刊行された「別れを告げない」も凄みがあったが、個人的に1冊を選ぶなら、光州事件をテーマにした「少年が来る」。死んだ少年が語るある言葉が、今年、個人的に起きたある出来事と分かち難くリンクしてしまい、ますます特別な一冊になった。


山口馬木也

ドラマ「剣客商売」の秋山大治郎や「水戸黄門」の鳴神の夜叉王丸などでお馴染みの……と思っていたが、「侍タイムスリッパー」のスマッシュヒットで、意外と一般的には知られていなかったことに驚いた。映画自体は少し物足りなさを感じてしまったのだが役者陣は抜群に良く、特に山口馬木也の訥々とした会津弁が素晴らしかった。もちろん殺陣も!


久しぶりの劇団☆新感線。明治座の玄関前に出演者の幟が立っているのを見て、俄然テンションが上がる。劇場の持つ雰囲気とTHE・エンタメの舞台の相互作用で、「お芝居を見た」感を堪能。生田斗真の古参ファンと新感線の生え抜きファンが混在し、耳に入ってくる場内のおしゃべりも楽しかった。25年夏にはゲキ×シネ上映も決定とのこと。







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