私的名台詞 #1<br>「お友達なんですか? 相手の人」

映画『百円の恋』より

 安藤サクラが32歳の自堕落な引きこもりから一転、ボクサーを目指して試合に挑むヒロイン・一子を魂込めて演じた映画『百円の恋』。第39回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞と最優秀脚本賞(足立紳)を受賞した本作が、4月8日(金)までテアトル新宿で凱旋上映中だ。

 一子が働く百円ショップに裏口から通ってくる根岸季衣演じるホームレスおばちゃんのタフな生命力や、見ているこちらまで走り出したくなるような安藤サクラのトレーニングシーン。反面、そんな彼女たちのどうしようもないだらしなさもちゃんと描かれていて、良くも悪くも女が拳を握りしめたくなる本作だが、個人的にいちばん胸に刺さったのはこのセリフだった。

「お友達なんですか? 相手の人」

 初めてボクシングの試合を見た夜、一子が新井浩文演じる中年ボクサー・狩野に向けて放った一言だ。「なんで?」と聞き返されて、一子はこう答える。

「肩、叩き合ってたから」

 試合が終わり、ボクサー同士が互いに健闘をたたえて肩をたたきあう姿を見て、友達なのかと思った。その一子の心情があまりにも切なくて痛くて、泣けた。映画の冒頭で一子と妹が繰り広げたような、後に尾を引く湿度の高い喧嘩ではなく、殴り合いをした直後、なにごともなかったように肩を叩いてその場の感情をあっさりとリセットできる潔さ。もちろん喧嘩ではなくスポーツなんだから当たり前のことなのに、一子にとってはそれが「人と人の対等な付き合い」に見えたんだ。そう思った瞬間、一子というキャラクターに心を鷲掴みにされてしまった。

 狩野になんでボクシングなんか始めたんだよと聞かれて、「殴り合ったり、肩たたきあったり、なんかそういうのが……」とあいまいに答える一子。彼女にとってはリングの上が誰かと対等になれる場所に思えた。だから鏡に向かってぎこちないファイティングポーズを決めたのだ。

 試合が終わったあと、一子は対戦相手のところへ自分から歩み寄り、抱きついて肩を叩く。ありがとう、といいながら。自分と正面から向き合ってくれて、対等に相手をしてくれてありがとう。

 でも本当は、自分で自分の人生をちゃんと背負えたから、はじめて誰かと正面から向かい合えたんだろう。一子が自分の試合の入場テーマにどんな曲を選び、どんな名前を胸に入れて戦ったか。それを見ればよくわかる。

『百円の恋』

監督/武正晴

脚本/足立紳

出演/安藤サクラ、新井浩文、稲川実代子、早織、宇野祥平、坂田聡、伊藤洋三郎、重松収、根岸季衣

公開/2014年

114分

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