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私的名台詞#2<br>「なんだかんだ言ってお前が正しいよ」

映画『モヒカン故郷に帰る』より

緑のモヒカン頭の売れないバンドマン、主人公・永吉(松田龍平)が、妊娠した恋人の由佳(前田敦子)を連れて、7年ぶりに帰郷すると、父親(柄本明)の末期ガンが発覚。パクチー栽培で妻子を養おうかとうそぶく、30歳過ぎの愚息は、図らずも頑固親父の死と向き合うことになる。

 さて今回の私的名台詞、正しくは「俺は俺なりにいろいろ考えてみたんだけど、なんだかんだ言ってお前が正しいよ」である。作中二度、永吉が口にするセリフだ。一度目は、父親の今後の治療方針について、本島の大きな病院でセカンドオピニオンを求めるべきではないか? と、母親(もたいまさこ)と弟(千葉雄大)が真面目に相談する中、長男としての意見を求められたとき。何も考えていないのがバレバレだ。 

 帰郷前のライブの後、メンバーたちが今後について話し合っているときにも、のらくらと使っている。どこまでも人任せな、トボケた男である。

 中学生男子の言葉に感化されちゃうほど、のんきな永吉だが、どこか憎めない(松田からじんわりと醸し出される、おかしみによるところが大きい)。馬鹿息子に心配をかけまいと、強気に帰京を促す母親のもとに、広島観光でお茶を濁して、ふらっと舞い戻ってきてしまう。ひょうひょうとした息子の姿を見て、母親は子どもみたいに号泣する。よっぽど安心したのだろう。

 いろいろとズレてはいるのだが、死にゆく父親のために何かしたいと思う、永吉なりの強い気持ちも、チャーミングだ。その威力とは、3軒もの宅配ピザ屋をフェリーに乗せて、離島まで呼び寄せるほどだ。だんだんと頼もしい男に見えてくるから、不思議である。前述のセリフでさえも、相手を肯定する、主人公の可愛気を象徴しているように思えてくる。

 瀬戸内のおだやかなロケーションの中で、父との別れを描きながらも、病院での結婚式のシーンなど、独特のユーモアに包まれた世界観は、ファンタジックな祝祭感にあふれている。人が生まれ、死んでゆくという当たり前の出来事を、ある家族の物語を通して、生き物の営みのダイナミズムが感じられる映画に仕上がっている。まさに主人公・永吉のような、愛すべき映画だ。

『モヒカン故郷に帰る』

監督・脚本/沖田修一

出演/松田龍平、前田敦子、千葉雄大、もたいまさこ、柄本明ほか

音楽/池永正二

配給/東京テアトル

製作年/2016年 製作国/日本

カラー125分

テアトル新宿ほか全国公開中

©2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会

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