母の日によせて<br>映画の中の母たち

 A新聞の“母の日”に寄せた紙面で、母と娘で一緒に観たい映画についてのインタビューを受けた(5月8日掲載予定)。改めて母娘をテーマにした映画を整理してみると、古今東西、娘にとって、母とは巨大な壁であると思い至った。今回はB面のノリで、ひとりで噛みしめたい(!?)母娘映画を紹介したい。

 母なる障壁を乗り越えたとき、娘は、ひとりの女性として、大きな成長を遂げた達成感を覚えるのだろう。近年ディズニーアニメで、母娘をテーマにした作品が目立つのも、そんなドラマチックな側面に惹かれる部分が強いのではないか。『塔の上のラプンツェル』では「あなたの味方」と言って、娘を支配する(育ての)母の呪縛から解放される、18歳の娘の成長が爽快に描かれていく。

 ひと昔前の、過保護な母の弱さを映し出したのは『ソロモンの偽証』で、永作博美が演じた母。華奢な体に似合わぬ派手な装いで、娘を守ろうと虚勢を張る母の危うさを、宮部みゆきの原作以上に鮮烈に表現した。公衆電話ボックスから走り去る姿は、いまも脳裏に焼きついている。

最近こそ、深刻な毒母問題がクローズアップされているが、イングマール・ベルイマンの『秋のソナタ』や『香華』の頃から、毒母は存在していた。60年以上に及ぶ、母と娘の波瀾に満ちた人生を綴った、有吉佐和子の原作を、木下恵介監督が長編映画化(201分!)した『香華』で、乙羽信子が演じた、ど厚かましい母なんて圧巻だ。一度だって親らしいことをしてもらったことのない、放蕩母に振り回されっぱなしの人生を、黙々と生きる中で、娘(岡田茉莉子)はしたたかな女になっていく。父の墓参りに娘が帰郷したラストシーンでは、それまで真逆に見えた二人のタフさが重なり合って、清々しさすら感じてしまった。

愛を乞うひと』の母(原田美枝子)の、娘を虐待するときの鬼の形相と、娘に髪を梳いてもらってうっとりする、聖母のような表情の落差も衝撃的だった。それ以上に、そんな理解不能な母を、長い時間をかけて受け入れてしまう、娘の懐深さには激しいショックを受けた。昔の人には、障害や困難を乗り越えようとするのではなく、受け入れようとする知恵があったのかもしれない。

 母となって、娘を育てるうちに、忘れていた娘時代の記憶が揺り起こされることも。『空中庭園』で小泉今日子が演じる母は、大楠道代ふんする母を反面教師に、理想の母を演じてきた(つもりだった)。作中の「ママと言っても、所詮年を食った子どもに過ぎない」というセリフにドキッとさせられた途端、理想の母は崩壊してゆく。どの母も、かつては娘だったのだ。祖母、母、娘……三世代を描くフィクションの世界を眺めるとき、母から娘へ、意識がスイッチしていることがある。娘時代の思い込みが改まったり、娘の頃にはわからなかったことが腑に落ちたり、不思議な感覚に陥ってしまう。6月25日から公開の映画『ふきげんな過去』でも、娘にも母にもきつくあたられる、浮ついた中年女を好演する小泉今日子のリアルな存在感は、時代にあいまって面白い。

 ハリウッド映画で、小泉今日子的立ち位置と言えば、ジュリア・ロバーツだろうか。近作『8月の家族たち』では、ハリウッド映画界のおかんことメリル・ストリープの長女であり、反抗期の娘を育てる母を情熱的に演じたロバーツだが、心配性の母(サリー・フィールド)の反対を押し切って、死を決しても出産しようとする娘を演じた『マグノリアの花たち』も名作だ。フィールド&ロバーツ母娘を含め、美容院に集う女たちの、人生の困難を笑い飛ばしていく強さも美しい。

一方、母にとっても、時に娘とはモンスターのような、恐るべき生き物である。『極道の女たち 危険な賭け』では、強面の男たちがひれ伏す、岩下志麻姐さんが、工藤静香ふんする世間知らずの娘の初恋に翻弄される、母の脆さを体現し、長年続くシリーズのヒロイン像に深みを与えた。『虹蛇と眠る女』では、オーストラリアの砂嵐のように、一家を襲う破滅的な娘と対峙する母を、ニコール・キッドマンが熱演している。

 いろいろな母娘映画を見返して、昔と全く印象が違ったのは『ステラ』。娘が成長するにつれて、かたくなに未婚の母の道を選んだ母の幼さが露になっていくやるせなさ。カラフルな風船で恋人に妊娠を祝福されて、喜んだ無邪気さのまま、懸命に娘を育ててきた母が、娘の幸せのために自らの限界を思い知ったときの悔しさ。そして雨の中のラストシーンの切ない母を、ベット・ミドラーが哀愁たっぷりに演じる。昔は、公開当時の惹句よろしく、一緒に流行歌を口ずさんだり、顔を見れば、娘の本心をわかってくれる、親友のようなお母さんに憧れていた。でもやっぱり母親って、しんどいと思う。だからこそありがたいのだけれども。

 母の日といえば、小学生のとき、エプロンの似合う母親になってほしくて贈ったものの、エプロンをつける習慣のまるでないわが母に見向きもされず、がっかりした思い出がある。お母さんだって、いろいろだ。そして私も、エプロンをつけないママになっていた。

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