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2017映画ベスト10+3

2017年公開の映画ベスト10+その他印象に残った作品3本をピックアップ。

石村加奈の10+3

 最初に、来年掲載される某映画誌に提出したベストテン(提出は本サイトより2週間ほど早かった)とは、並びが違うことを断っておきたい。映画誌では2017年度公開作の特徴をふまえた視点(とはいえ、個人的な好き嫌いも大きく影響しているのだが)から、こちらは、2017年の年の瀬に、もう一度観たい2017年の映画という切り口によるランキングとなっている。

 そこでまず思い浮かんだのは、ヤスミン・アフマド監督の遺作となった、マレーシア映画『タレンタイム〜優しい歌』だ。高校の音楽コンクール「タレンタイム」に挑戦する高校生たちの青春を描きながら、宗教や民族の違いによる葛藤を抱える、多民族国家マレーシアの複雑な社会が、作中繰り返し流れるドビュッシーの「月光」の旋律のように清らかに映し出されていく。主軸となる4人の高校生の中で、いま私が恋しいのは、闘病中の母への想いをギターで歌うハフィズ少年だ。ハフィズのギターに合わせて、二胡を奏ではじめるカーホウとのシーンの、みずみずしい優しさ。これぞ、ヤスミン映画の真髄であろう。いま観たら、きっと号泣してしまう……。ハフィズの母が口にする苺も、ヤスミン監督らしい、チャーミングなモチーフだった。『ダンケルク』の苺ジャムをどっさり塗ったパンも、印象的だった。

 暮れもずいぶん暮れてから、プライベートで今年いちばんの大事件が勃発し、気持ちが弱っている分『パターソン』などの心身にやさしい映画が並んだ感。『わたしは、ダニエル・ブレイク』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『彼らが本気で編むときは、』など、映画の終わりに、かすかに見える光に惹かれている。一方で、今年の外国映画で目立ったタフネスなヒロイン映画は減ったが、『メッセージ』のあやういヒロイン・ルイーズの選択には、大きな励ましをもらった。クストリッツァ・ワールド『オン・ザ・ミルキーロード』でのびのびとした、モニカ・ベルッチも女っぷりが上がり、神々しいほど。『勝手にふるえてろ』の、こじらせヒロイン(松岡茉優)もかわいかった。ああやって、大きめのコートやパーカで、世間から身を守ろうとしていたウブな頃があったなと、昔の自分と久しぶりに再会したような懐かしさもあった。5年前の自分なんて、ちっとも思い出せないが、あの頃の自分を覚えてくれている人がいる喜び、故郷に帰れば、歓迎してくれる人のいる幸せをしみじみと噛みしめた『バンコクナイツ』。ヒロインの田舎の闇の中を、昔の男と二人乗りしたバイクのライトが、UFO みたいにピカピカの青色を放っていたのもきれいだった。

『タレンタイム〜優しい歌』

原題:Talentime

監督・脚本/ヤスミン・アフマド

音楽/ピート・テオ

出演/パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショールほか

製作年/2009年 製作国/マレーシア

カラー115分

配給/ムヴィオラ

1月20日(土)〜26日(金)、アップリンク渋谷の「見逃した映画特集」にて上映。

http://www.uplink.co.jp/movie/2017/49657

+3

連続テレビ小説「ひよっこ

毎日まいにち15分間、ドラマを見続けることの豊かさをしみじみ感じた作品。回を重ねるごとに、各セクションの熱量とあそび心が高まっていく様子が手に取れる愉しさも。

きっかけが思い出せないのだが、2月に原田ひ香の小説を一気読みした。中でも「母親ウエスタン」のヒロイン広美、さすらう女の爽快感が好きだった。今年、一気読みしたもうひとりの作家が柚木裕子。こちらは、来年5月公開の映画「孤狼の血」の原作小説がきっかけ。登場する女性に、えげつない負荷をかける女ぎらいっぷりがふしぎで、どんどん読み進めたが、謎はとけないまま。

肝心の板橋区立美術館にはまだ行けてないていたらくだが(すみません!)、11月末に行われたシンポジウム「世界を変える本作り」に参加。ふたりのギータさんを囲んで、工夫と発見で、世界を広げていくクリエイターたちの話に勇気づけられた。来年1月公開の映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』dries-movie.com/ で、孤高のファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテンもインド刺繍に魅せられて、インドに工房を構えていると知り、勝手に親近感をおぼえたりして。

岩根彰子のベスト10+3

Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

 2017年という枠を越え、生涯ベスト10に入るほど大好きな一本になった『パターソン』。映画館からの帰り道、駅の長いエスカレーターの手すり脇に使い古しの絆創膏が貼ってあるのに気がついた。この映画を見た後でなければ目に留まっても記憶には残らなかっただろう。そんなふうに思える映画。アダム・ドライヴァーが詩を朗読する声の深さや永瀬正敏の「A-ha?」など、心だけでなく耳にも残る作品だ。

 たいていの映画は「決断」を描くもの。誰かが何かを決めることで、物語は先へと進んでいく。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』もやはり「決断」の映画だったが、その決断が予想していたのとは逆方向で、だからこそ忘れられない一作になった。

 小さな世界を見ていたはずなのに、気づくとどんどんそこから遠ざかって視界がひらけていく。『オン・ザ・ミルキーロード』と『バンコクナイツ』は、どちらもそんな作品だった。両作ともに地雷が重要な意味を持って作品中に登場するのは不思議な偶然。

 他者から押し付けられる「らしさ」を徹底的に否定するヒロイン・ミシェルの行動がいっそ爽快だった『エル ELLE』。この爽快感はイザベル・ユペールが演じたからこそだろう。『ドリーム』もまた、外の世界から求められる「らしさ」に静かに戦いを挑んだ女たちを描いて爽快な一作。個人的にはお腹にいるころから知っている女子高校生の友人と一緒に見に行った特別な一作にもなった。

 クボが奏でる三味線の音色に乗って折り紙たちが物語を紡ぎ始める冒頭の場面で釘付けになってしまった『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』。立川シネマシティで見たのだが、終映後、各座席についているライトが灯った様子がまるで劇中の灯籠流しのようで、映画世界との境目がふわっと滲んだ気分になった。

 一方、見るなら絶対にIMAXで! と方々から言われていた『ダンケルク』。確かにIMAXの画面で見ると、特に戦闘機の飛行シーンで海と空だけが上下に広がっていく世界に引き込まれそうだった。空パートだけで90分、見ていたい気もする。

 『私は、ダニエル・ブレイク』の「人生には追い風が必要だ」という台詞。そして『エンドレス・ポエトリー』のラスト、ホドロフスキー御大自らが登場し、主人公と父親を後ろから抱えるようにして抱き合わせるシーンの「そうじゃない」の一言。どちらも監督自身の心の底から発せられた言葉のなんと強いこと。いろいろな面で「作る人」の強さを実感させられた一年だった。

+3

33回サンダンス映画祭短編部門グランプリ受賞作ということで話題になった短編映画。女子中学生たちの不機嫌そうな顔と疾走する自転車に、それこそ本作の舞台である埼玉県狭山市からまっすぐ南下した、“どこにも続いていない国道”沿いの町で女子中学生をやっていたころの自分を思い出した。

タイトルのみに惹かれて購入し、モノクロ写真と俳句の相互作用に驚き、さらに編集者のトークショーへ行って作者の内田美沙(俳句)と森山大道(写真)が姉弟だったと聞いてさらに驚いた一冊。タイトルにもなっている「慕情いま鉄砲百合の射程距離」の句は、ベストテンにも挙げた「エル ELLE」でイザベル・ユペール演じたヒロインとイメージが重なる。

劇団ロロ、初体験。少しいろいろ詰め込みすぎだし、ややこしく入り組ませすぎかなというそこまでの感想を一気にひっくり返すクライマックスの凄さにやられた。「舞台に散らばった色も形もバラバラのパーツを拾い集めているうちに、突然後ろから大きな手でぐわっとすくいあげられ、まぶしい光の中へ連れて行かれるような感覚でした」と観劇した日のtwitterに書いていたが、まさにそんな気分。

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