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2018映画ベスト10+3

2018年公開の映画ベスト10+その他印象に残った作品3本をピックアップ。

石村加奈の10+3

©2017 Twentieth Century Fox.

『スリー・ビルボード』の娘を殺された母・ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)然り、2018年は、喜怒哀楽の中の怒り、もっと言えば、復讐に突き動かされていく主人公たちの姿が印象的だった。それは今年の世相を反映しているようにも思う。ほろ苦いリアルであと味のすっきりしない『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(今年は『レディ・プレイヤー1』も公開した、巨匠スピルバーグの懐深さ!)のヒットも、時代の風を受けている気がした。そんな不穏な時代だからこそ、『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』のトム・クルーズの変わらなさに魅了され、『ブリグズビー・ベア』で描かれる映画の魔力に惹かれてしまうのだろう。『レディ・バード』や『リメンバー・ミー』、『ハッピーエンド』『君の名前で僕を呼んで』『愛しのアイリーン』など、新しい家族像<親像も新鮮だった。『愛しのアイリーン』で主人公の母を怪演した木野花には、ベスト・オブ・マザー賞を差し上げたい。

 ドキュメンタリーなのに、完璧な物語を紡ぎだした『苦い銭』では、ワン・ビン監督の力量を見せつけられた。来年1月下旬から公開される、キドラット・タヒミック監督の『500年の航海』にも通じる、スケールの大きさを感じた。

 日本映画では、時代劇仕立てにすることで、いまに通ずるテーマがダイレクトに伝わる快作が心に残っている。大正時代を舞台に、自由を求めた若者たちの姿を活写した『菊とギロチン』をはじめ、『斬、』『パンク侍、斬られて候』なども現代的なテーマを孕んだ力作だ。『菊とギロチン』『鈴木家の嘘』で、難役を見事に演じ切った、木竜麻生のこれからがとても楽しみだ。

+3

作品の素晴らしさについては以前本サイトでも紹介したが、2月の公開から口コミで評判を集め、全国各地で上映会を開く(現在も継続中!)という展開に、日本のインディペンデント映画の新たな可能性を感じた(『カメラを止めるな!』の大ヒットも含め)。春本雄二郎監督の次回作にも期待が募る。

濱口竜介

今年のカンヌ国際映画祭に出品された『寝ても覚めても』の公開時に、過去作の特集上映に通った。平日でも混み合う劇場で、大勢の観客と一緒に、317分間の『ハッピーアワー』を堪能した時間はしあわせだった。しあわせと言えば、初めて観劇した宝塚歌劇団の、現実を忘れさせるパーフェクト・ワールドも圧巻だった。

山田太一脚本、鶴田浩二主演のテレビドラマ(全13話/1976〜1982年)。改めて見直す機機会があり、斬新なストーリーに圧倒された。背景のひとつに世代の違いが描かれているが、例えば「墓場の島」を若い頃に見ていたら、いまとはまた違う気持ちになっていただろうと思った。豊かな作品だ。

岩根彰子の10+3

 せっかく二人のベストテンを並べるのに、1位が同作品というのもどうかと思ったものの、やはり今年のベストワンからは外せなかった『スリー・ビルボード』。脚本、演出、演技どれをとっても見事としか言いようのない傑作だが、最も心に残ったのは、早朝、看板の前に花を植えているミルドレッドの前に鹿が現れる場面だった。不幸と同じように、心を溶かす出来事もまた不意に訪れる。だからこの先どうするかは、道々考えればいいのだ。

『ビューティフル・デイ』は、名曲「I’ve Never Been to Me」の使い方にノックアウトされた。原題の“YOU WERE NEVER REALLY HERE”の意味も腑に落ちる名場面。

 初見の際には物足りなさを感じていたのに、2度目に見たら我ながら驚くほど好きになってしまった『フロリダ・プロジェクト』。冒頭で流れるKool & the Gangの「セレブレイション」が初見では皮肉めいて聞こえたのに、2度目には心の底から子どもたちを祝福しているように感じられた。安モーテルの「Magic Castle」「Future Land Inn」という名前も実はまっすぐに彼らに向けられた祈りの言葉なのかもしれない。この先、見るたびどんどん好きになっていく予感がする一作。スペイン映画『悲しみに、こんにちは』も幼い少女・フリダが主人公。『フロリダ・プロジェクト』のムーニーと本作のフリダ、二人の少女がそれぞれクライマックスで流す涙の味の違いが印象的だ。

『レディ・バード』『ブリグズビー・ベア』『ボヘミアン・ラプソディ』は、それぞれに個性的な主人公が愛おしくてたまらなかった。『ア・ゴースト・ストーリー』のシーツを被った幽霊も、シーツが次第に汚れていったり、空洞の目の形が場面場面で絶妙に変化していく様など、じわじわと愛らしさを増していく。不思議な味わいの映画だった。

 スピルバーグの機動力に驚かされた『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』は、トム・ハンクス演じるブラッドリーの妻(サラ・ポールソン)が、スクープ掲載を誇らし気に報告する夫に、「本当に闘ったのはキャサリン(メリル・ストリープ)よ」と率直に言うシーンが素晴らしい。もともと編集主幹という地位にいるブラッドリーよりも、女だからと馬鹿にされ、家族にも迷惑がかかるかもしれない状況で掲載を決断した彼女の方が、より覚悟が必要だったろうという、ほんのワンシーンの些細なセリフだが、そこをきちんと描くスピルバーグの視線の確かさに敬服。

『カメラを止めるな!』は作品も手放しで楽しかったが、公開館が続々と増えていく盛り上がりや、会う人会う人と「あれ、見た?」と会話が弾んだ楽しさは記憶しておきたい。

+3

ハル・ハートリー「ロングアイランド・トリロジー

90年代に大好きだったハル・ハートリーの『トラスト・ミー』『シンプルメン』。その前作にあたる『アンビリーバブル・トゥルース』の3作をBOXセットで発売するクラウドファンディングが立ち上がったので迷わず参加。年末、ついに手元に届いた。同時期に吉祥寺に新しくオープンしたアップリンク吉祥寺でも、オープン当日『トラスト・ミー』『シンプルメン』を連続で見て、まったく古びていない魅力にうっとりしつつ、また吉祥寺に通いたくなる映画館ができた喜びをかみしめた。

封切時に見逃したままだった本作を、『タクシー運転手』公開きっかけのリバイバルで初見。当時、見ていたらさぞや衝撃を受けただろうと思う反面、遡っていく「20年」という時間にはリアリティを感じられなかったかもしれない。主人公と年齢が近くなった今年見たからこそ、忘れがたい一作になったのかも。

『特捜部Q』シリーズ

未解決事件の調査を担当する特捜部Qの活躍を描くデンマークの人気ミステリーシリーズ。映画第4弾の公開を記念して、今年12月にキネカ大森で1〜3作目を特集上映してくれたので、久々に3本立てを決めてきた。1作目「檻の中の女」の交通事故シーンの冴え冴えとした美しさは大画面で見ると格別だった。本国版『ミレニアム』好きにはたまらないシリーズ。4作目『カルテ番号64』は2019年1月11日から「未体験ゾーンの映画たち2019」で上映決定! 嬉し!

『スリー・ビルボード』

原題/ Three Billboards OutsideEbbing,Missouri

監督・脚本・製作/マーティン・マクドナー

製作/グレアム・ブロードベント

音楽/カーター・バーウェル

出演/フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェルほか

配給/20世紀フォックス映画

製作年/2017年 製作国/イギリス・アメリカ

カラー116分

©2017 Twentieth Century Fox.

形式: Color, Dolby, DTS Stereo, Dubbed, Subtitled, Widescreen

言語: 英語, 日本語

字幕: 日本語, 英語

リージョンコード: リージョンA

画面サイズ: 2.35:1

ディスク枚数: 2

販売元: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

発売日 2018/06/02

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