音楽と映画#３<br>『幸せをつかむ歌』
映画で、結婚式のシーンを観るのが好きだ。その土地の風土やお国柄、宗教、それぞれの家族が大事にしているもの、結婚するカップルのこだわりなど、ハレのセレモニーから、いろいろなことが見えてきて、俄然親しみがわくのだ。たとえば本作の主人公・リッキー（メリル・ストリープ）の次男ジョシュ（セバスチャン・スタン）の、花の種が添えられた結婚式の招待状からは、主賓の二人がロハスなオシャレカップルと推察できる。そして参列者たちに、ご祝儀代わりに寄付金を募るあたり、金持ち臭も漂う。そんな華やかな式典で浮いているのはリッキーだけだ。
夢を捨てられず、数十年前に家族を捨て、ひとりミュージシャンの道を選んだヒロインも54歳になった。ロサンゼルスのロックバーで、ハウスバンド「リッキー＆ザ・フラッシュ」のリードボーカルとして歌い続けてはいるものの、客観的に見れば、スーパーのレジ打ちで生計を立てる、場末のシンガーだ。ある日、元夫ピート（ケビン・クライン）から「娘のジュリー（メイミー・ガマー＊メリルの実娘）が離婚した」と連絡を受けたリッキーは、娘の助けになりたい一心で、インディアナポリスの元夫の豪邸へと急ぐ。再会してはみたものの、ぎくしゃくする母娘だが、昔通ったドーナツ屋や、ネイルサロン、美容院へ連れ回す母に、ジュリーは安らぎを覚える。
昔の思い出箱を物置から引っ張り出して、父と母、娘の穏やかな時間に、リッキーが聴かせてくれたギター・ソング「Cold One」。ディアブロ・コディの脚本を読み、リッキーが15年前に作った曲のイメージで、ジェリー・ルイスとジョナサン・ライスが手がけたオリジナル曲だ。優しい歌声はジュリーを孤独から救うが、ピートの妻モーリーン（オードラ・マクドナルド）が実家から戻り、改めて母親失格の烙印をつきつけられたリッキーは、ロスへと帰っていく。
バンド仲間・グレッグ（グラミー賞歌手のリック・スプリングフィールド）の愛に寄り添われて、自分らしさを取り戻したリッキーは、ためらっていた、冒頭の次男の結婚式に出席することを決心する。親戚から好奇の目を向けられる中、新郎の母親としてスピーチに立った彼女は、祝福を歌で捧げる。リッキーがジョシュに贈った曲は、ブルース・スプリングスティーンの、80年代初期のホットなナンバー「My Love Will Not Let You Down」。選曲がメリルというから驚きだ（仕事に向かう車中のラジオから、この曲が流れてきたという、ひきの強さったら!?）。
場末のシンガーだろうと、トム・ペリーの「American Girl」からピンクの「Get the Party Started」、レディ・ガガの「Bad Romance」まで、新旧問わずファンキーな楽曲を生演奏する、リッキー＆ザ・フラッシュのエネルギッシュなステージは、観客を興奮させ、気持ちよく踊らせる。全曲で生歌を披露するメリルは、ニール・ヤングからギターテクを習ったのだとか!? 中でも、リッキーのナイーブな心情を歌にのせた、エドガー・ウィンターの「Keep Playing That Rock&Roll」とドビー・グレイの「Drift Away」のパフォーマンスは、ドラマチックだ。
リッキーのギグ＠ジョシュの結婚式で、クライマックスに達する本作。リッキーの音楽に、真っ先に踊りはじめるのは誰か？……など、ハイライトシーンが華麗に展開されていく。いわゆる家族の形は壊れても“My love will not let you down.”ロック界のボスことスプリングスティーンのように、自分の悩みや葛藤を、誠実に歌い続けてきたリッキーの自己肯定力こそが、最高＆最強のパフォーマンスを生むのだ。
今回紹介した曲
「Cold One」リッキー＆ザ・フラッシュ
「My Love Will Not Let You Down」ブルース・スプリングスティーン
「American Girl」トム・ペリー
「Get the Party Started」ピンク「Bad Romance」レディ・ガガ
「Keep Playing That Rock&Roll」エドガー・ウィンター
「Drift Away」ドビー・グレイ
『幸せをつかむ歌』
原題／RICKI AND THE FLASH
監督／ジョナサン・デミ
脚本・製作／ディアブロ・コディ
出演／メリル・ストリープ、ケビン・クライン、メイミー・ガマー、リック・スプリングフィールドほか
配給／ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
製作年／2015年
製作国／アメリカ カラー101分
2016年3月5日（土）から、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
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