2019年映画ベストテン+3
岩根彰子のベスト10+3
©Meta_Spark&Kärnfilm_AB_2018
2 幸福なラザロ
5 ナディアの誓い
6 天国でまた会おう
8 たちあがる女
9 芳華-Youth
10 ワイルドライフ
2019年はマイノリティの声について考えさせられることが多い1年だった。だからだろうか、社会からはみ出さざるを得ない人々を描いた映画が強く印象に残った。『ボーダー 二つの世界』は、映像化によってまったく漂白されていない世界観が圧巻で、小説を読みながら深く物語世界に没頭していくときに似た感覚を味わえた。世界から孤立した主人公を描いている点では、ある意味、『ジョーカー』の対極に位置する作品のようにも思え、それは本作の主人公が社会のなかで「異形の女」として生きてきたことと関わりがあるような気もする。『幸福なラザロ』の奇妙な味わい、そしてあるべきところに音楽が響いた場面でわきあがった喜びは忘れがたい。『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』『永遠の門 ゴッホの見た未来』は、自分にしか見えない世界を表現する人間の強さと脆さを繊細に描いていた。30年来のウィレム・デフォーファンとしては、純粋さと偏屈さを兼ね備えたゴッホ役にうっとり。
『ナディアの誓い』は、自身が受けたISISによる性暴力被害を世界に訴え、2018年のノーベル平和賞を受賞した23歳のナディア・ムラドを追ったドキュメンタリー。「On Her Shoulders」という原題の重さを噛み締めつつ、これは彼女だけに背負わせてはいけない荷物だという監督のぶれない視線、さらに映画としての構成の巧さが際立っていた。
『バジュランギおじさんと、小さな迷子』は、インドとパキスタンが抱えるシリアスな問題と、エンターテインメントを極めたミュージカルシーンの緩急が絶品。ラストシーンの微妙な止め絵については、ぜひ見た人と話し合いたい。アイスランドを舞台にした『たちあがる女』は、主人公が花の絵を描く場面で、まず黒い線で土と根から描き始めたのが印象的。豊かな自然を壊そうとする電力会社と果敢に闘い続ける彼女が、羊や岩山や温泉や川といった自然に助けられる姿とまっすぐに繋がるシーンだった。
『天国でまた会おう』と『芳華-Youth』は、美しい日々と戦場の対比が印象に残る。『ワイルドライフ』は、『リトル・ミス・サンシャイン』や『スイス・アーミーマン』で繊細な青年を演じてきたポール・ダノの初監督作品。3つ並んだ椅子の両端に座る父と母、というメインビジュアルにもなっているラストシーンに、ポール・ダノらしさが滲んでいた。
+3
「少年が来る」
韓国文学を読む機会が多かった2019年。『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』(パク ミンギュ)、『フィフティ・ピープル』(チョン・セラン)、『こびとが打ち上げた小さなボール』(チョ・セヒ)など、どれをとっても面白かったが、光州事件を題材にしたハン・ガンの『少年が来る』は、研ぎ澄まされた言葉と視線の精度が凄じかった。死んだ少年の魂が、投げ捨てられた自分の死体と違って、治療を受け清められた遺体を見て恥ずかしさと嫉妬を覚えた、という表現には足下が崩れるような衝撃を受けた。
Netflix映画の話題作は、配信前に劇場で公開されることが多い。基本、映画は(特に初見は)劇場で観たい人間にとってはうれしい限り。本作は劇場公開時に観に行き、Netflixで配信がスタートした後、あらためて見直したのだが、アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソン演じる離婚調停中の夫婦が互いのいいところをあげていく冒頭のシークエンスは、2度目の鑑賞の方がさらに染みた。
【ハル・ハートリー DAYS OF 16mm FILMS】サバイビング・デザイアー+初期短編特集
ここ数年のハル・ハートリーリバイバルの決定版ともいえる、16mmフィルムで撮影された中短編の特集上映。どの作品にもハートリーらしさがちりばめられていたが、「オペラNo.1」のエイドリアン・シェリーとパーカー・ポージーの限界を突破した愛らしさは極上だった。同時に新作(!)のクラウドファンディングも進行中。
石村加奈のベスト10+3
1 ROMA/ローマ
2 ジョーカー
4 主戦場
5 バーニング劇場版
6 家族を想うとき
7 イエスタデイ
8 半世界
10 惡の華
作品に込めるメッセージのブレのなさから、引退発言を撤回した(祝!)、ケン・ローチ監督の『家族を想うとき』は、監督の直截的なメッセージに、言葉を失うほどのパワーを感じたが、Netflix配信を使った『ROMA/ローマ』のアルフォンソ・キュアロン監督、村上春樹原作の根幹はそのままに、現代の韓国社会問題を大胆に反映した『バーニング劇場版』のイ・チャンドン監督らの、時代との対話から生み出した、あたらしい世界観に驚き、愉しんだ。個人的には『世界の涯ての鼓動』での、ヴィム・ヴェンダース監督の変化にも、強い衝撃を覚えた。映画的表現をいかして、見事に“いま”を映し出した『ジョーカー』、『主戦場』、日本映画の『新聞記者』や『よこがお』も見応えがあった。『ディリリとパリの時間旅行』は、ミッシェル・オスロ監督独特の、美しい世界観に、女性差別に対する、進歩的な(いま時、当たり前の感覚だとも思うのだが)考えが昇華された、愉快なアニメだ。『COLD WARあの歌、2つの心』も、パヴェウ・パヴリコフスキ監督マジックとも言うべき、モノクロの映像美、2人の恋を象徴するような激しい旋律の音楽……その豊潤な世界観に魅了された。この数年、目立つ音楽映画の中では『イエスタデイ』で描かれる、ダニー・ボイル監督のファンタジーが好きだった。大人が観て、面白い日本映画としては『半世界』の中年男女(特に池脇千鶴が演じる、初乃のふくよかな女性像が素晴らしかった)、押見修造の原作エッセンスを、井口昇監督が正確に実写化した青春映画『惡の華』が記憶に残っている。玉城ティナが魅力的だった。
+3
大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」
宮藤官九郎の脚本、ビートたけしはじめキャスト陣の芝居、それぞれの面白さを、1年間堪能した。
年末のライブで、ROVOの音楽にはじめて触れるという、贅沢な出会い。まさに宇宙を感じる、気持ちよさだった。来年もきっとライブへ行こうと思っている。
『ラヴソング』
仕事で何十年ぶりに見返した、ピーター・チャン監督の名作。切ない恋模様がまったく色褪せていないことに、衝撃を受けた。