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2020年映画ベストテン+3


石村加奈のベスト10+3

©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC


 緊急事態措置の前と後で、映画を取り巻く環境がすっかり変わってしまった一年だった。『パラサイト 半地下の家族 』を観たのなんて、ずいぶん昔のことのように思えるが、社会とリンクした作品の強度は、いま観ても健在。改めて素晴らしい映画だと思う。『海辺の映画館ーキネマの玉手箱』を遺して、大林宣彦監督が亡くなられたショックは、いまなお大きい。過去作を見返しながら、大林監督ならば、いまの世界をどのように感じ、どう表現するのか、とても知りたいと思った。少女をとりまくちいさな社会の、幅広い世代の登場人物たちの心の機微を描きだした『はちどり』は、観る世代によって違う感想を抱くのだろうなと、そんな懐の深さを感じた。美しいアニメーション『ソウルフル・ワールド』の、風に舞う楓のプロペラ(翼果)を見つめる、静かなシーンが印象的だった。これから先、人生にときめきを見失いそうになったら、何度も思い出すだろう。思わずさわりたくなるような、豊かな毛並みのセラピー猫には、今年のベストオブニャンコ賞を贈りたい。ジャズつながりというわけではないが、『おらおらでひとりいぐも』の桃子さんの暮らしぶりを垣間見て、年を取るのもなかなかたのしそうだとホッとした。『佐々木、イン、マイマイン』は、映画館を出て、渋谷の雑踏を歩いている時に、今年観られてよかったなあとしみじみと感じた。なつかしい人としゃべりたくなるような。『ジオラマボーイ・パノラマガール』の、原作の1980年代後半と映画の2020年がふしぎにマッチした空気感には、ワクワクした(瀬田監督は街を物語に取り込むのがうまい!)。ヒロイン・ハルコを演じた山田杏奈の、あの年代特有のソリッドな魅力もキュートだった。国葬 』をはじめ、ロズニツァ監督の三部作にも、いま観る意味について考えさせられた。こう書いていくと”いま”ということに敏感な一年だったのだと改めて気づいた(でも、去年もそのようなことを書いていたので、単純に年のせいかもしれない)。

 いま、だけじゃない魅力を味わうのも、映画の面白さだ。『ストーリー・オブ・マイライフ・わたしの若草物語』は、映画を観たという満足感に満たされた一本だ。クリスマスの朝など、原作を読んだ時に抱いていたイメージ以上の美しい世界を映しだし、さらに新しい解釈を加えた仕上がりもたのしかった。『行き止まりの街に生まれて』は、観客はもちろん、監督や映画に登場する、監督の家族や仲間に、映画という居場所があってよかったと心から思った。来年はもっと視野を広げて。


+3


竹内結子さん

泣き顔と笑顔の印象的な女優さんだった。ドラマ『イノセント・デイズ』を観ながら、泣き顔も、笑顔も、紙一重に見える、まじりけのない純度は、ドラマ『ランチの女王』の頃とまったく変わっていないのだなと感じ入った。年を重ねた役どころをもっと見たかった。大好きだったのは『サイドカーに犬』。RCサクセションを歌うヒロインが恰好よかった。


百年と一日』柴崎友香(筑摩書房)

年末の、ちょっとくたびれていた時期に読み、さまざまな登場人物たちのそれぞれの人生にふれて、ふしぎな活力をもらった本。個人的には、同じ時期に観返した映画『ヘヴンズ ストーリー』ともリンクしたのかも。


リンゴを届けがてら、友だちの家に行った日曜日の夕方、散歩がてらに入った美術館。予約なしで入れた気軽さと、明治時代に建てられた旧朝香邸の美しさ、ちょうどその時やっていた「生命の庭」という展覧会(2021年1月12日まで)の、8人の現代作家たちの若い感性(特に志村信裕さんと康夏奈さん)など、いろいろと刺激的だった。来年はいろんな場所に出かけられますように。





岩根彰子のベスト10+3

©WolfWalkers 2020 全国順次公開中



  


 劇場で映画を見る機会が例年より少なかった2020年、『ウルフウォーカー』は暗闇のなかで映画に没頭する幸せをしみじみと味わわせてくれた。狼になったロビンが“見える”ようになる匂いや音の描写の魅力的なこと! なにより、女の子なんだからと城壁の中に閉じ込められようとしている彼女にかけられた「狼になれ!(Be a wolf !)」の一言が刺さる。

アルプススタンドのはしの方』は、「こうなれたらいいな」という願いを削る「どうせ無理」の呪いをやわらかく解いていく高校生たちの姿が頼もしい。登場人物の1人が、ある人のために買ったものの、なかなか渡せずずっと持ち歩き、ぬるくなってしまった(しかも飲みかけの!)「お〜いお茶」をようやく相手に渡せた瞬間、涙腺が緩んだ。これを渡せたこと、渡させてあげたことが、この作品の明るさの芯だと思う。一方、アメリカの女子高生2人組の卒業前夜に繰り広げる騒動を描いた『ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー』は、古くさい価値観がひとつも登場しない、最高の青春コメディ。彼女たちがここは譲れない、という際に使うマジックワードが「マララ」だったのには笑ったものの地味に感動。『はちどり』は、予想していたよりもはるかに射程が長く、深い物語に参ってしまった。父、兄それぞれの号泣シーンや呼びかけに応えない母の背中など家族描写が見事。

 ここまで紹介してきた作品も含め、今年は女たちのゆるやかな連帯が特に印象的。なかでも『はちどり』で主人公に「殴られないで」と告げる書道の先生や、『ハスラーズ』のジェニファー・ロペス、『37セカンズ』の渡辺真起子ら、自身も悩みや迷いを抱えつつ、それでも年下の女の子を見守り、その背中を押してあげる女たちが美しかった。

ジョジョ・ラビット』は、スカーレット・ヨハンソンの揺れる足先カットが衝撃。こんな風にあっけなく、人は去ってしまうのだ。 パブリック 図書館の奇跡』は、街なかのベンチを手すりで区切ることに疑問を感じない人全員に見てほしい。これもまた連帯の物語。そして、『クール・ランニング』に並ぶ“I can see clearly now”映画でもあった。(そういえばラストシーンの男たちの立ち姿、クールランニングの昔のジャケットに似ていたな……)

 今の時代にリメイクする意義が見事に伝わってきた『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』。しかし一番の衝撃は、子供時代に原作を読んで以来ずっと脳内で思い描いていたローリーがついに現れたこと! ティモシー・シャラメ!

 『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は、『スポットライト 世紀のスクープ』と同じく、カトリック教会の神父による少年への性的虐待事件を描く。監督がフランソワ・オゾンと聞いて少し驚いたのだが、作品を見て納得。『スポットライト~』が“事件”を描いていたのに対して、本作は事件に巻き込まれた“人々”を描いていた。盛り上がる見せ場はほとんどないのに、まったく飽きることがない。3人の被害者たちの人生が画面から滲むような、まさに「映画力」を実感させられた作品だった。



+3


制作現場はコロナ対応で大変だったにも関わらず、ドラマが豊作だった2020年。最後のクールでまんまとハマったのが「チェリまほ」。ドラマ全体の作りももちろん素晴らしかったが、「黒沢のこの目線の流し方!」「この台詞前の一瞬の安達の言い淀み!」「顎! 顎のライン!!」など、久々に登場人物の仕草や表情そのものに萌える感覚を堪能。「ブックスマート」同様に価値観がアップデートされた世界だったことも、とても嬉しい。


おばちゃんたちのいるところ」松田青子(中公文庫)

文庫化をきっかけに読み直して、今年考えさせられることの多かった「女の連帯」「弱者の連帯」が詰まった名作だな、とあらためて。「Where The Wild Ladies Are」という英題もよい。自分にとって2020年のベスト5に入るドラマ「妖怪シェアハウス」の元ネタでは? とも密かに思っている。ああ、はやくもののけになりたい。


作品ではないが、今年一番力づけられたニュース。杉作J太郎さんが主催する「男の墓場プロダクション」が「狼の墓場プロダクション」に改名。


“そもそも「男の墓場プロダクション」は、後藤真希さん主演の『青春ばかちん料理塾』(斉藤郁宏監督 / 2003年)っていう映画を男仲間と一緒に観た直後に、「女の子だからという理由だけで後藤真希に料理を作らせるなんてふざけんじゃねえ。自分たちで映画を作って、ハジキを持ってもらおう!」なんて言ってできたすごく私的なプロダクションなんです。”


この発足経緯からしてしびれるが、改名理由もまたストレート。女自身が取り扱いに苦労している「フェミニズム」を、こんなに軽やかに体現できる人が存在することに、本当に救われた気分になった。その場で足踏みしている奴ばかりじゃないぞと、喝を入れられたような気もする。





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