

私的逸曲#1「今夜はブギー・バッグ」
「今夜はブギー・バッグ」(1994) 作詞・作曲・編曲/小沢健二、光嶋誠、松本真介、松本洋介 映画『オオカミ少女と黒王子』より 風邪で学校を休んだ、オレ様王子こと恭也(山崎賢人)の見舞いに行ったヒロイン・エリカ(二階堂ふみ)が、ぎこちなくもかいがいしく世話を焼き、恐らくまだ 誰も見たことがないであろう、恭也の邪気のない寝顔にうっとりする。彼の家のキッチンで雑炊を作るところから、とろけるような甘い気分の帰り道までの幸せな時間に、彼女が口ずさむのは、小沢健二&スチャダラパーの「今夜はブギー・バッグ」(94年)だ。 エリカの嘘から始まった、恭也に振り回されっぱなしの恋愛ごっこ。何かあれば幼なじみ(門脇麦)を頼ってしまう、奥手な女の子から、この瞬間、歌の魔法にでもかけられたように、グググッと大人っぽさが表出する。どことなく、岡崎京子の漫画の、ファンキーなヒロインを彷彿とさせる横顔。そういえば、この映画の登場人物たちは高校生だが、親や家族の気配がほとんど感じられない。離れて暮らす、のんきな恭也の姉(菜々緒)くらいだ。高校生のリアルに重きを置かず、


サンディエゴの青年に抱く、ふしぎな当事者感
映画『ヒップスター』 ふしぎな肌ざわりの映画だ。原題は真逆の「I AM NOT A HIPSTER 」(“HIPSTER”とは、流行に敏感な人を指すスラング)。たしかに本作の主人公、ブルック・ハイド(ドミニク・ボガート)は、流行に関心はなさそうだ。ライブシーンから始まる本作...


名画をいただく『バベットの晩餐会』
デジタル・リマスター版でよみがえった名画『バベットの晩餐会』が全国順次公開中だ。海辺の小さな村で慎ましく暮らす人びとの、心と体を満たすバベットのディナーは、スクリーンで観るとおいしさ&見応えが一段とUP! 貴重な機会をぜひとも味わっていただきたい。以下は、以前「午前十時の映画祭」で特集上映されたタイミングで「キネマ旬報」に掲載したもの。午前10時から始まる上映時間に合わせて、文末ではランチの予約をおすすめしたが、ランチでも、ディナーでも、心のままに召し上がれ! 例えば溝口健二と同じ時代に生まれた映画ファンを羨ましく感じる体験はよくあるが、日本でバブル絶頂期に公開された本作については、今、スクリーンで出会える幸運を素直に喜びたい。当時もおそらく、映画の後、本作の晩餐会と同じフルコースを堪能するという具合の、デートの前菜的な、グルメ映画としてのファッショナブルな人気はあったかもしれない。しかし全編に散りばめられた豊かな機微をじっくり味わうには、右肩下がりの現代の方がふさわしく思えるのだ。 物語の舞台は、19世紀後半のデンマークの小さな漁村だ


母の日によせて 映画の中の母たち
A新聞の“母の日”に寄せた紙面で、母と娘で一緒に観たい映画についてのインタビューを受けた(5月8日掲載予定)。改めて母娘をテーマにした映画を整理してみると、古今東西、娘にとって、母とは巨大な壁であると思い至った。今回はB面のノリで、ひとりで噛みしめたい(!?)母娘映画を紹介したい。 母なる障壁を乗り越えたとき、娘は、ひとりの女性として、大きな成長を遂げた達成感を覚えるのだろう。近年ディズニーアニメで、母娘をテーマにした作品が目立つのも、そんなドラマチックな側面に惹かれる部分が強いのではないか。『塔の上のラプンツェル』では「あなたの味方」と言って、娘を支配する(育ての)母の呪縛から解放される、18歳の娘の成長が爽快に描かれていく。 ひと昔前の、過保護な母の弱さを映し出したのは『ソロモンの偽証』で、永作博美が演じた母。華奢な体に似合わぬ派手な装いで、娘を守ろうと虚勢を張る母の危うさを、宮部みゆきの原作以上に鮮烈に表現した。公衆電話ボックスから走り去る姿は、いまも脳裏に焼きついている。 最近こそ、深刻な毒母問題がクローズアップされているが


私的名台詞#2「なんだかんだ言ってお前が正しいよ」
映画『モヒカン故郷に帰る』より 緑のモヒカン頭の売れないバンドマン、主人公・永吉(松田龍平)が、妊娠した恋人の由佳(前田敦子)を連れて、7年ぶりに帰郷すると、父親(柄本明)の末期ガンが発覚。パクチー栽培で妻子を養おうかとうそぶく、30歳過ぎの愚息は、図らずも頑固親父の死と向き合うことになる。 さて今回の私的名台詞、正しくは「俺は俺なりにいろいろ考えてみたんだけど、なんだかんだ言ってお前が正しいよ」である。作中二度、永吉が口にするセリフだ。一度目は、父親の今後の治療方針について、本島の大きな病院でセカンドオピニオンを求めるべきではないか? と、母親(もたいまさこ)と弟(千葉雄大)が真面目に相談する中、長男としての意見を求められたとき。何も考えていないのがバレバレだ。 帰郷前のライブの後、メンバーたちが今後について話し合っているときにも、のらくらと使っている。どこまでも人任せな、トボケた男である。 中学生男子の言葉に感化されちゃうほど、のんきな永吉だが、どこか憎めない(松田からじんわりと醸し出される、おかしみによるところが大きい)。馬鹿息子に


私的名台詞 #1「お友達なんですか? 相手の人」
映画『百円の恋』より 安藤サクラが32歳の自堕落な引きこもりから一転、ボクサーを目指して試合に挑むヒロイン・一子を魂込めて演じた映画『百円の恋』。第39回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞と最優秀脚本賞(足立紳)を受賞した本作が、4月8日(金)までテアトル新宿で凱旋上映中だ。 一子が働く百円ショップに裏口から通ってくる根岸季衣演じるホームレスおばちゃんのタフな生命力や、見ているこちらまで走り出したくなるような安藤サクラのトレーニングシーン。反面、そんな彼女たちのどうしようもないだらしなさもちゃんと描かれていて、良くも悪くも女が拳を握りしめたくなる本作だが、個人的にいちばん胸に刺さったのはこのセリフだった。 「お友達なんですか? 相手の人」 初めてボクシングの試合を見た夜、一子が新井浩文演じる中年ボクサー・狩野に向けて放った一言だ。「なんで?」と聞き返されて、一子はこう答える。 「肩、叩き合ってたから」 試合が終わり、ボクサー同士が互いに健闘をたたえて肩をたたきあう姿を見て、友達なのかと思った。その一子の心情があまりにも切なくて痛


主人公の、観客の、人生に寄りそう犬映画
映画『ミラクル・ニール!』をめぐって Twitterの自己紹介でも、犬好きを公言している先輩ライターのTさん、Twitterでは僅差で猫派を語るSさんと、大久保で春の肉食会。春休み映画『ミラクル・ニール!』の話から、犬好きのTさんに、好きな犬映画を聞いてみると『人生はビギナ...


本→音楽と映画#4 3.11をめぐって
小説『彼女の人生は間違いじゃない』 映画監督・廣木隆一の、初めての小説『彼女の人生は間違いじゃない』(河出書房新社)を読んだ。主人公のみゆきは、東日本大震災後も、地元・福島の仮設住宅で父親と暮らし、役所に勤める女性だ。彼女は時々、高速バスで東京へ行き、デリヘル嬢になる。目的はお金ではなく、「少し現実を忘れられる所」で「私を知らない誰かと。私も知らない私と。誰かを裏切ってみたかった。」から。震災で生き残ったことに、漠然とした負い目を抱えているのだろう。そんな彼女のこわばった心をほぐして、その人生を肯定してくれる、廣木監督らしい、やさしいお話だった。みゆきの、デリヘルで稼いだお金の使い方が、かわいらしい。ひよわでも、だらしなくても、監督の描き出す人間には、どこか憎めない人間味がある。 福島出身の廣木監督は、震災から1年後に『RIVER』という映画を発表している。クランクイン直前に、東日本大震災に遭ったこの作品は、監督の強い意志によって脚本が書き直され、震災後の日本を映し出す作品に変更された。その後も、福島ロケを敢行した『海辺の町で』(


音楽と映画#3『幸せをつかむ歌』
映画で、結婚式のシーンを観るのが好きだ。その土地の風土やお国柄、宗教、それぞれの家族が大事にしているもの、結婚するカップルのこだわりなど、ハレのセレモニーから、いろいろなことが見えてきて、俄然親しみがわくのだ。たとえば本作の主人公・リッキー(メリル・ストリープ)の次男ジョシュ(セバスチャン・スタン)の、花の種が添えられた結婚式の招待状からは、主賓の二人がロハスなオシャレカップルと推察できる。そして参列者たちに、ご祝儀代わりに寄付金を募るあたり、金持ち臭も漂う。そんな華やかな式典で浮いているのはリッキーだけだ。 夢を捨てられず、数十年前に家族を捨て、ひとりミュージシャンの道を選んだヒロインも54歳になった。ロサンゼルスのロックバーで、ハウスバンド「リッキー&ザ・フラッシュ」のリードボーカルとして歌い続けてはいるものの、客観的に見れば、スーパーのレジ打ちで生計を立てる、場末のシンガーだ。ある日、元夫ピート(ケビン・クライン)から「娘のジュリー(メイミー・ガマー*メリルの実娘)が離婚した」と連絡を受けたリッキーは、娘の助けになりたい一心で、イ


「よ」に弱い
映画『野火』 映画としての色気が、メッセージ性を軽く凌駕してしまっていた。 ある種の使命感や伝えるべきことがあって作られているはずなのに、それ以上に映画的魅力が画面からだだ漏れしている。 塚本晋也監督の『野火』は、そんな映画だった。...
